愛さないことにかけては世界の方が上手

詩人・ライターの喜久井伸哉(きくい しんや)による愚文集

【断想】僕の舌はお前たちの舌と舌と舌と舌と舌と舌のあいだで語らないといけない

僕の口中はお前たちの顔でびっしりだ舌の表面で爛熟した顔顔顔の熱帯雨林舌の中の舌の中の舌の中の舌の中の舌お前たちの大量の顔で舌が動かせない身動きがとれない顔うごきがとれない舌うごきがとれない好き勝手にしゃべりまくる舌の腫瘍共四半世紀越しの顔…

【断想】ミネルヴァの鶏

SNSに生息するミネルヴァの鶏いつも朝焼けにバサバサと飛ぶ この国で一番愛されてるのは忘却そのことも忘れられているから本当 他人を押しのけて自分に到達した結果頂上で振り返れば無数の僕が倒れている 人間を産んだのは神だが神の産婆は人間であった × 家…

【断想】傷口を舐める舌の動きが発話の起源だとしたら

この舌には棘だけが生え伸びる薔薇もなしに 身体のハードに無理やり適合させて再起動した本当は互換性のないソフトウェアみたいな自己 自分が自分を人質に取って自分を恐喝する試みにやっと成功したとき三人の自分が被害者になっていた 狭小な新疆自分自治区…

【断想】豪雪にビーサン

友達の悲劇に目を疑い家族の不条理に耳を疑い大人の口を疑う日々の結果自分だけを疑うようになった トラウマの万年雪にフラッシュバックの雪崩病いの豪雪地帯でビーチサンダルを渡される 世相の油を飲み干して私の舌に火事が起きた凍てついた世論に延焼し燃…

【詩】一匹の子豚と九匹の豚野郎によるオープンダイアローグ

長男は耳を藁でふさいだ次男は耳を木材でふさいだ三男は耳をレンガでふさいだ しかし オオカミの声はすべてをつらぬいた 四男は耳を鉄でふさいだ五男は鉄筋コンクリートでふさいだ六男は必死に怒鳴り返した だが 声はすべてをつらぬいた 七男は防音室に立て…

【ご案内】5月21日開催〈文学フリマ東京〉 参加決定

いつも当ブログをご覧いただきありがとうございます。《文学フリマ》出店のご案内です。 今回私は、「ひきポス」のメンバーとともに、5月21日(日)開催の《文学フリマ東京36》に参加します。 ひきポスは、「ひきこもりの声を届けるポスト」として活動する情…

【断想/一行文集】ぼくは間違いなく間違っている

四六時中自分の面倒を見ないといけないなんて! 僕は自分の身の丈に合っていない 僕に自分を外注している 慣れない義手みたいに言葉を使っている ぼくは精神科医に病んでる 僕はあなたの言語の外で育った 舌が焚書にあう ぼくは逃げも隠れもしたい! 舌の下…

【断想】歎舌抄(たんじしょう)

それは闇の中で希望を告げる光ではなく次の闘いの始まりを告げる焼夷弾だった 人々が口を開いては沈黙をたいらげている 人から噛み砕いて説明されたことでわたしごと粉々に砕かれてしまった 私の舌から知らない文法が出てくるその方が相手はよくうなずいてく…

【断想】僕の身外にいる人

名刺のためにたくさんの顔を刷る 教育は僕を娼婦にして稼がせることに成功した 僕の趣味は徒労本業とおなじ 自分の顔に不在票をかけておく これは僕と原寸大の牢屋 命の顔料が尽き世界に色がない 僕は自身の身重となって心臓に陣痛だけがある たくさんの足を…

【断想/一行文集】狂っていることにかけては世界の方が上手(うわて)

狂いすぎたせいで一周まわって正常って感じ 自分自身との調停は常に泥沼 また自分の法廷で私が否決された 心療内科へ過去を工事しにいく 金出しゃ誰でも大歓迎!ようこそメンタルクリニックへ! 希望が抱けないなら せめて絶望のバリエーションを増やそうぜ …

【断想】名前のバケツに意味のゲロを吐く

八年間の沈黙の岩盤を爆破するためにはのどにダイナマイトぶち込まないといけないよ あんたの舌先に定住は無理日替わりの真実がマイクラみたいで 言葉の負債を忘却で帳消しにするそのせいで思い出が自己破産する 私はマイナス一ヵ国語の話者 人はこの言葉を…

【断想】舌痛集(ぜっつうしゅう)

舌を喰いしばって生きている 顔中に無数の動かない舌目をおおう舌 耳をふさぐ舌顔面に舌 鼻毛に舌 歯列に舌老いた舌 枯れた舌 流産した舌 除菌した舌 骨折した舌切除された舌 無能な舌 未熟児の舌 統失の舌無機物の舌 去勢された舌 調教された舌 拘束された…

【断想】《注意》壊れています さわってください

《注意》壊れています さわってください 私ってたぶん病気のサンバカーニバルの通り道になってる 被験者としてなら医大の首席だよ 私の靴 売ります 未使用 うつが心の風邪?どこが?心のALSじゃなくて? 毎日スプリンクラーみたいに泣いてるリビングを芝生に…

【断想】《よくある質問》 命から退会するにはどうしたらいいですか?

神様はきっと陰キャ私に出てこないじゃん どうやら私のうつは徒歩圏に住んでる 一括の自殺は思いとどまったけど生きていない日々を分割払いしている未来がたびたび過去に押収されているよ 金があれば過ごしていけるけど暮らしていけるわけじゃない 生活する…

【断想】私のかわいい死者(今なら涙でスプラトゥーンできるぜ)

私に墓地が新設された 私は立ち止まっているわけじゃない死者に歩調を合わせているだけ 私のかわいい死者見つめるたびに表情が変わる語りかけるたびに思い出が変わるこれじゃあ離れられないでしょ この世は死者のハーレムじゃん 故郷には死者が棲息している…

【断想】舌の墓地

黙れという刑に処され口内に監禁された舌 言い難き嘆きもて口の陣痛を倦む 歯列を蹴る足は二十年目の舌の臨月 舌の根に墓地を発見しても耳が墓守を務めるとは限らない 大きな声量によって届けないといけません大きな聴量なんて送られてきませんから 殺した者…

【断想】息枯れ

息の根は枯れ声の花なく命に荒野あり乞いに御名(みな)なく 息の根に冬吸息の春遠く国に大気薄し未明に舌あえぐ 人々は口持たず息は架空の虚人々は目を増やす息は冷えびえと絶え 雪原重くむごく潰れ息の種耐えず春いまだ来ず 新しい日常の新しい息ならず古…

【断想】舌の軍事

いつか耳を転覆させるために虎視眈々と軍拡を続ける舌の軍事 権力で目がふさがれて口が衰える権力で耳がふさがれて口が退化する口はふさいでいませんよねという我が国の自由 自ら耳を舗装したせいで国の口車に轢かれていく人々 罪ではなく罪悪感で死んでいる…

【断想】耳の祭

耳までの距離に舌がすくむ 私の言葉を訳せるようならそれは私の言葉ではない私の声が聴こえるようならそれは私の声ではない 口が堅いのはいい鼻が堅いのはまだいい耳が堅いのはいけない目が堅いのはもっといけない 口先だけの人がいるように耳先だけの人がい…

【断想】子供の学名

名前の津波がやってくる私はただ一人それを受け止める 一生をかけて私たちは自分自身の喪主を務める 一度は意味であった稚魚たちが成長した名前に放流されていくいつかわたしの記憶が遡上して手に負えない大きさで再会するまで 虚飾をまつりあげ実名が逃げて…

【断想】執行猶予無期(聴聞権の失効)

体中に口の生えた化け物が一声もあげずに息絶えていた 言葉の暗夜に耳の炬火を掲げ黙り込んだ幼子の顔を照らせ立ちすくんだという聴聞権が閉じられた舌を拓かせるまで 私は沈黙に呼ばれている悲鳴より聞こえているものに 人は黙殺で二度殺せる 唖にはびこる…

【断想】失調統合症(女という汚名ではなくて)

女という汚名ではなくて私はふつうの名前に耐えていないといけない 死よりマシな一日を生き死よりマシな一日を眠るその一生が死よりマシかどうかはともかく 大量生産された名前が私を初めて個人にする 過去が現在すぎるときにすぐ眠れるわけないでしょ 同僚…

【断想】ぼくは自分から他人すぎる

昨日に僕は戻るそしてそこには誰もいない誰とも待ち合わせていない昨日に僕は戻るそしてそこには誰もいない昨日で僕は待っているそしてそこには誰もいない ・ 笑顔は口よりも大きいまなざしは目よりも重い大きさと重さで子供の顔はつぶれた ・ ぼくは社会か…

【断想】義肢 義顔 義僕

昨日に僕は戻るそしてそこには誰もいない誰とも待ち合わせていない昨日に僕は戻るそしてそこには誰もいない昨日で僕は待っているそしてそこには誰もいない ・ お前のまなざしが顔を彫ると僕の仮面が発掘されるお前がそれを付けるとお前が見られている僕の顔…

【小説/MAD】飼育 feat.女子高生(大江健三郎の小説『飼育』に登場する「黒人兵」を会田誠の絵画『犬』をモデルとした「女子高生」に改変した日本文学)

※本稿は、大江健三郎の小説『飼育』に登場する「黒人兵」を、会田誠の絵画『犬』をモデルとした女子高生に置き換えた文章です。公序良俗に対して、適切であるために作られた文章ではありません。 参照大江健三郎 『大江健三郎自選短篇集』 岩波書店 2014年会…

【断想】顔病

昨日に僕は戻るそしてそこには誰もいない誰とも待ち合わせていない昨日に僕は戻るそしてそこには誰もいない昨日で僕は待っているそしてそこには誰もいない ♦ 顔の影が体の影に影をおとす ♦ 僕は顔が閉まっていた鍵はあなたたちしか持っていなかったなのにな…

【断想】「〈自分アレルギー〉患者」の自伝

わたs

【エッセイ】生誕100年 ジョン・ケージに捧げる433文字

【断想】『世界文学全集』より 沈黙・余白名場面集

紫式部 『源氏物語』「雲隠れ」 ダンテ『神曲』 …… ラブレー『ガンガルチュアとパンタグリュエル』 …… シェイクスピア『リア王』 …… スウィフト『ガリヴァー旅行記』 ……! ドストエフスキー『罪と罰』 ……? トルストイ『戦争と平和』 ………………………………………… プル…

【断想】『現代ウクライナ短編集』の一部抜粋と、収録作品「天空の神秘の彼方に」に登場する人名と人称代名詞のすべてを「人間」に置き換えた一文

今回は、『現代ウクライナ短編集』(群像社 2005年)の収録作、「天空の神秘の彼方」の文章の一部を改変した一文と、短い抜粋文を掲載する。 具体的には、「アンドリイ」「フェーディル」といった人名と、「彼」「彼女」といった人称代名詞を、すべて「人間…