愛さないことにかけては世界の方が上手

詩人・ライターの喜久井伸哉(きくい しんや)による愚文集

2023-01-01から1ヶ月間の記事一覧

【断想】息枯れ

息の根は枯れ声の花なく命に荒野あり乞いに御名(みな)なく 息の根に冬吸息の春遠く国に大気薄し未明に舌あえぐ 人々は口持たず息は架空の虚人々は目を増やす息は冷えびえと絶え 雪原重くむごく潰れ息の種耐えず春いまだ来ず 新しい日常の新しい息ならず古…

【断想】舌の軍事

いつか耳を転覆させるために虎視眈々と軍拡を続ける舌の軍事 権力で目がふさがれて口が衰える権力で耳がふさがれて口が退化する口はふさいでいませんよねという我が国の自由 自ら耳を舗装したせいで国の口車に轢かれていく人々 罪ではなく罪悪感で死んでいる…

【断想】耳の祭

耳までの距離に舌がすくむ 私の言葉を訳せるようならそれは私の言葉ではない私の声が聴こえるようならそれは私の声ではない 口が堅いのはいい鼻が堅いのはまだいい耳が堅いのはいけない目が堅いのはもっといけない 口先だけの人がいるように耳先だけの人がい…

【断想】子供の学名

名前の津波がやってくる私はただ一人それを受け止める 一生をかけて私たちは自分自身の喪主を務める 一度は意味であった稚魚たちが成長した名前に放流されていくいつかわたしの記憶が遡上して手に負えない大きさで再会するまで 虚飾をまつりあげ実名が逃げて…