断想集

詩人・ライターの喜久井伸哉(きくい しんや)による愚文集。

【断想】2026/10/21

  供述
記憶が殺しにきたから
刺し返したのは正当防衛
僕は金輪際思い出さない
という喪失に刺し貫かれる

 

  セミリンガル
ぼくは自分たちのセミリンガルで
昨日の説明責任を果たせない
出来そこないの通訳をともなった
耳の悪い記者が話のつづきを待つ

 

  修理士
ぼくは修理士のせいで複雑に壊された。
人間にしかできない方法で壊れたものを
治せるのは自然以外をおいてない。
ところで修理士は土工屋も兼ねていて

 

 二つの橋
努めて正確に—— 僕は二つの橋を同時に渡りきる
道はゆるやかな曲線で東西へ離れていく
右耳に言われた親切な道案内を
誰か持ち主に伝えてやってほしい

 

【断想】2026/10/14


  開封された未来
同窓会のタイムカプセルから出てきたのは舌
騒然とする年老いた子どもたち
つたない時代に有在でなかったお前はこの方法でしか
免罪者たちの遠い口先を奪えなかったの?

 

  沈黙肯定感を高めましょう
そこ やる気を出しなさい 沈黙の角度が違いますよ
きみの沈黙は3センチ長いね 来週までに切ってきなさい
個性と勝手を履き違えず もっと子どもらしい沈黙にしなさい
全国大会では地域の代表として立派に黙りましょうね

 

  市民
ようやくたどり着いた劇場でお前は客席に独りきりだ
舞台上の群衆(と照明係と掃除夫)からいっしんに見つめられ
期待されていない凡才が満身で市民を演じ切る
せいぜい大衆からささやかな払い戻しにあう未来のために

 

  蠢動
僕は生きながら他人の肉葬に処されている  
今日における自傷はどこまでも他傷であるだろう
むしろこの肉体が僕という罰を受けているとでも?
彼は明白な無意識で蠢動を放ったらかしている

 

【断想】2026/9/30

  昼
今日も沈黙が舌の森を夢に見た
噂が咲き誇る春はまるごと土に埋もれて
祀るもののない空っぽの霊廟ばかりが立派
そして善人たちは誰も追悼の辞を述べない

 

  手のパノプティコン
伝部に障られる手のパノプティコン
心臓の裏で生成される愛撫の侵襲
いずれも塔が有人である必要はない
私の血こそが罪にひざまずいている

 

  住民登録
記憶は狭めな無間地獄で
永劫ちゃんが元気に燃える
わたし地獄に戸籍を移して
来年も鬼に礼金を払うよ

 

  刑事
私は不法移民たるこの舌をかくまわない
憲兵は不備があれば申し立てよと言う
そして世を渡る者が互いの文盲を隠す
律法は正しくも収監された舌だけを裁く