愛さないことにかけては世界の方が上手

詩人・ライターの喜久井伸哉(きくい しんや)による愚文集

2018-01-01から1年間の記事一覧

【諷刺家ファイル】No.53 諷刺画の王 ジョージ・グロス

ジョージ・グロス(George Grosz 1893–1959)ドイツの世相を鋭く荒々しい描写によって描きだした、二〇世紀最大の風刺画家。 以下は『社会諷刺漫画』 (岩崎美術社 1969年 ※表記は「グロス」ではなく「グロッス」となっている)から。順に「えらい人」、「つ…

【現代詩】「(弔うことのできない死があって)」他一編

今年書いた詩、「(弔(とむら)うことのできない死があって)」と「あとかた」の二編を掲載します。 ♦♦♦♦♦ (弔うことのできない死があって) 弔うことのできない死があって喪上がりはまだおとずれていない。遺体のあがらない死があって僕は悲しみきること…

【コラム】読書の真骨頂 「ネトウヨ」に読書家はいない

書店へ行くと、「マンガでわかる」とか「一日〇分で身に着く」とか、即効性を売りにした本がベストセラーの棚に並んでいる。効率的な情報処理は時代の要請でもあるだろうし、私自身がその手の本のお世話になったこともある。けれど本を開き、文字を追い、自…

【写真詩】髙木敏次『傍らの男』付

もしも 遠くから 私がやってきたら すこしは 真似ることができるだろうか (「帰り道」) 知らない人によりかかって その人を 知っている人のようにおもいたい (「その人」) どこからでも見えるが 私だけが見えない (「男」) 死んだ人が 生きている真似…

【詩】「禽獣(きんじゅう)」

禽獣 「絆」という言葉はむかし家畜をつなぐ道具の意味だった。大勢で歌われるには不向きな綺麗でもない原義がある。もっとも絆とやらの内実にはずうずうしい調教もあっただろう。 守りたかっただけの命綱がいつしか首吊りをさせている。そばにいようとした…

【本】失われた〈物語り〉を求めて 中動態から見る「教育マイノリティの世界」⑤

中動態から見る「教育マイノリティの世界」/國分功一郎著『中動態の世界』読書メモ⑤ 『中動態の世界』は、マイノリティの言葉の不自由さについての記述から始まる。学究的な分厚い本のプロローグが、語れないことへの嘆きから始まることに、あらためて注目…

【本】「不登校の原因」はどのタイミングで発生するか?中動態から見る「教育マイノリティの世界」④

中動態から見る「教育マイノリティの世界」/國分功一郎著『中動態の世界』読書メモ④ futoko.publishers.fm 「選択」と「意志」は別物 『中動態の世界』では、ハンナ・アレントを参照し、「選択」と「意志」の違いを考察している。 たとえば、「リンゴを食べ…

【本】 ガッコウへ「行く」ことも「行かない」ことも能動ではない。中動態から見る「教育マイノリティの世界」③

中動態から見る「教育マイノリティの世界」 國分功一郎著『中動態の世界』読書メモ③ 「不登校新聞」哲学者・國分功一郎インタビュー futoko.publishers.fm 〔問題:カツアゲにあって金を渡す行為は、能動態と受動態のどちらになるか?〕 中動態を考察してい…

【本】「行く」が能動態で「行かない」が中動態? 中動態から見る「教育マイノリティの世界」②

中動態から見る「教育マイノリティの世界」/國分功一郎著『中動態の世界』読書メモ② futoko.publishers.fm 「不登校新聞」のインタビュー記事 に刺激を受けつつ、中動態から見た「教育マイノリティ(不登校)の世界」を見ていきたいと思う。なお私は七歳か…

【本】中動態から見る「教育マイノリティの世界」  國分功一郎著『中動態の世界』読書メモ①

2018年8月15日、「不登校新聞」で哲学者・國分功一郎さんのインタビューが公開された。私も編集に関わった記事で、著書の『中動態の世界』を中心に語られている。 futoko.publishers.fm マイノリティには、世の中のマジョリティの人々とは「言葉が違う」よう…

【現代詩】「寒蝉鳴(ひぐらしなく)」

寒蝉鳴 六十年後の子孫たちがある昼下がりにほがらかな顔をして私たちの今日を戦前だったと言っている あれはまだスマホしかなかった頃のどかにも東京と書けた頃親たちの親たちとその親たち今よりも無恥だったプロローグ まだ会釈が通じるなんてさいわい茶菓…

【写真詩】ラーゲルクヴィスト『無題』付

自身で撮影した写真十点に、スウェーデンの詩人ラーゲルクヴィスト(1891ー1974)の作品二編を付けて公開します。ラーゲルクヴィストは岩波文庫に『バラバ』『巫女』がありますが、私は散文より詩に感銘を受けました。弱く孤独な者=自身への憐憫ある内省的…

【アート】ダークユーモアの描き手4人

漫画家や風刺画家とも一線を画す、独自のユーモアやシニカルな視線を持った描き手たちがいる。今回はその中から、特筆すべき4人のアーティストをまとめてみた。 デヴィッド・シュリグリー DAVID SHRIGLEY イギリスの現代アーティスト。日本でも2017年から201…

【本】芥川賞が選ばなかった最先端の日本文学3選

村上春樹、高橋源一郎、島田雅彦、中原昌也。これらの作家たちに共通することがある。それは、優れた前衛小説を書きながら、芥川賞を取らなかったことだ。芥川賞は、半年に一度やっているわりに、これぞという作家たちを漏らしてきた。(新人の傑作が候補に…

【現代詩】『イーロン・マスクの火星移住プロジェクトに対する私的な反対意見』

イーロン・マスクの火星移住プロジェクトに対する私的な反対意見 私ずっと沈黙そっくりの怒号をあびているみたいだった。子供の頃に受けた男性からの叱責が今でもよく聞こえていて大人になってからも余震みたいに私に残響してくれている。 安い下着履いてワ…

【コラム】「ひきこもり」とセクシャルマイノリティ③ 映画『恋に落ちたシェイクスピア』について他 

先月のことですが、「ひきポス」で「『ひきこもり』とセクシャルマイノリティ①」の記事がアップされました。第二回は6月18日(月)更新予定です。公開にあたってはいくつかの文節を削っており、断片的なものになりますが、この機会に削除した箇所を掲載しま…

【写真詩】「ヒルデ・ドミーン詩集」付

自身で撮影した2018年1月前後の写真に、ヒルデ・ドミーンの詩からの抜粋を込め、写真詩として掲載します。ヒルデ・ドミーンは20世紀ドイツの女性詩人で、簡潔な言葉から高貴な詩風を築き上げています。代表作『薔薇だけを支えとして』は、芸術であり愛である…

【写真】「私の虹」

「東京レインボープライド2018」にて自分で撮影した画像と、検索から借用した画像の加工からなる写真集です。(「レインボープライド」を批判する意図はなく、5月6日の個人的な憂慮を表したものです。) ♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

【現代詩】「黒い虹」「平地」

先日「東京レインボープライド2018」を鑑賞した。そのことは「ひきポス」の記事でも取り上げている。 私の空にかかる虹は黒色 「ひきこもり」とセクシャルマイノリティ① - ひきポス -ひきこもりとは何か。当事者達の声を発信- 参加して楽しかった……という感…

写真詩「帰途」 /「ひきこもり新聞」サムネイルのための写真2 田村隆一の詩を添えて

2017年に、「ひきこもり新聞」のサムネイルに使おうと思い、撮影した写真です。画像だけではシンプルになるため、田村隆一の詩「帰途」を失敬し、写真につけ加えて公開します。 ♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦ 帰途 田村隆一 言葉なんかおぼえ…

詩「『十年』のトリプティーク」

「ひきこもり新聞」との最初の接点は、私が以下に載せた「十年」の詩を送ったことでした。結局は掲載の予定になりませんでした(つまりボツになりました)が、そこからエッセイを書くことにつながりました。個人史をふり返ってみれば、縁をつむいだ重要な詩…