愛さないことにかけては世界の方が上手

詩人・ライターの喜久井伸哉(きくい しんや)による愚文集

写真詩「帰途」 /「ひきこもり新聞」サムネイルのための写真2 田村隆一の詩を添えて

2017年に、「ひきこもり新聞」のサムネイルに使おうと思い、撮影した写真です。画像だけではシンプルになるため、田村隆一の詩「帰途」を失敬し、写真につけ加えて公開します。

 

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         帰途   田村隆一

 

      言葉なんかおぼえるんじゃなかった
      言葉のない世界
      意味が意味にならない世界に生きてたら
      どんなによかったか

 

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      あなたが楽しい言葉に復讐されても
      そいつは ぼくとは無関係だ
      きみが静かな意味に血を流したところで
      そいつも無関係だ

 

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      あなたのやさしい眼のなかにある涙
      きみの沈黙の舌からおちてくる痛苦
      ぼくたちの世界にもし言葉がなかったら
      ぼくはただそれを眺めて立ち去るだろう

 

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      あなたの涙に 果実の核ほどの意味があるか
      きみの一滴の血に この世界の夕暮れの
      ふるえるような夕暮れのひびきがあるか

 

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      言葉なんかおぼえるんじゃなかった
      日本語とほんのすこしの外国語をおぼえたおかげで
      ぼくはあなたの涙のなかに立ちどまる
      ぼくはきみの血のなかにたったひとりで帰ってくる