愛さないことにかけては世界の方が上手

詩人・ライターの喜久井伸哉(きくい しんや)による愚文集

2019-01-01から1年間の記事一覧

【散文】特に救いはないショートショート集

今回は、現代詩ではなく散文(ショートショート)です。詩を書いたときに出てきた削りカスであり、粗雑なものですが、まとめると掌編風になります。お時間ある方はどうぞ。 ※※※※※※※※※※※※※ 西の大泥棒と東の大泥棒 あるところに、西の大泥棒と、東の大泥棒が…

【本】読んでいて「へー」っとなった箇所ランキング2019 国際インポテンツジャーナル、米良地方の子守唄、配線用差込接続器について他

今回は、この一年くらいの読書中に「へー」っとなった箇所をランキング形式にして並べていく。ベスト10のうち上位にいくほど個人的な要因で選んでいるため、基本的に伝わりづらくなっている。あくまで私の読んだのが今年というだけで、出版年は無関係。適当…

【現代詩】いのちなしせたまひそ

海のすべてが墓石になってもかなしみにはちいさすぎる 遺体とはわたしのことこの世に遺されてしまったなすすべのない者のこと イザナギノミコトと化せるなら黄泉などかるがると越えていく どうか魂になどならずとおい星になどならずただの肉体でここに居よた…

【諷刺家ファイル】ノーベル文学賞記念 オーストリアの作家たち ペーター・ハントケ/トーマス・ベルンハルト/カール・クラウス

先日ノーベル文学賞が発表され、2019年の受賞者にオーストリアのペーター・ハントケが選ばれた。 せっかくなので、今回は趣味で記録している「諷刺家備忘録」の一環として、オーストリアの作家たちをとりあげる。ペーター・ハントケ、トーマス・ベルンハルト…

【現代詩】中原中也RPG

Ⅰ 柱も庭も乾いている一刻よりも長い半刻今日は平穏な好い天気階段の裏で蜘蛛の巣が心細そうに揺れているはいかいいえか選ばずに中空に瀕死のぼくが浮く 山では樹々もブレスを吐いた今日は平穏な好い天気この世のあらゆる四角い影があどけないかなしみを傾け…

あいちトリエンナーレ2019 展示されていない作品を鑑賞していない記録・写真30点

先日、「あいちトリエンナーレ2019 情の時代」を鑑賞した。名古屋に一泊し、愛知芸術文化センター、名古屋市美術館、豊田氏美術館と、四間道・円頓寺といった主要な会場を周遊。トリエンナーレにふさわしい現代アートの祭典であり、先端的な刺激に満ちていた…

【諷刺家ファイル】日本の戦中・戦後の画家たち 河原温・中村宏・石井茂雄・浜田知明

このブログは詩や1コマ漫画などさまざまな形式の記事を出しているが、元々は趣味の諷刺研究のアウトプットに使うという目的があった。諷刺家については、以前ツイッターで「諷刺作家備忘録101」をやり、101人分のリストがある。今回はそれらのまとめの一つと…

【現代詩】 誤答(終戦は終わった)

誤答 何人までが殺人で何人からが英雄か。どの線までが愛国でどの線からは敵国か。 ひらがなでかかれていたつちのうえカタカナにさせるアノデキゴト。文字にならない声を集めて歴史のマス目は埋められた。 テストのために子供たちは正確な偽書を暗記していく…

【詩】椅子 あいちトリエンナーレ 「表現の不自由展・その後」中止に寄せて

椅子 いまも世界で 誰かが椅子に座っている。 一生をともにするかもしれない出会いの椅子にも遺恨を残す追憶の椅子にも。 南向きのテラスにそなえたベンチ。子どもたちがステージを観る劇場S席。病院の廊下に並ぶ細長いオレンジ。夜行を待つ人々への慰撫。大…

うってんぱらりん中村佳穂 『そのいのち』の歌詞を激しく意訳する

《活動報告》 雑誌『ミュージックマガジン』2019年8月号に、『トム・オブ・フィンランド』の映画評を書いた。機会があればご覧ください。 ミュージック・マガジン2019年8月号:株式会社ミュージック・マガジンmusicmagazine.jp そしてそれとは一切関係なく、…

絵を描く作家たち 酉島伝法、ブッツァーティ、ムロージェク他

先日、酉島伝法の『宿借りの星』(東京創元社 2019年)を読んだ。異形の者が「本日はお皮殻(ひがら)もよく」というような、造語をはじめとした創造力と遊びに満ちており、SF的世界に耽溺できる小説だった。 しかし個人的に注目したのは、著者自身が写実的…

【写真詩】石川啄木歌集付

人がみな 同じ方角に向いて行く。 それを横より見てゐる心。 家を出て五町ばかりは、 用のある人のごとくに 歩いてみたけれど—— 死ね死ねと己を怒り もだしたる 心の底の暗きむなしさ どんよりと くもれる空を見てゐしに 人を殺したくなりにけるかな 己が名…

【現代詩】死とは五月のことではありませんでした

死とは五月のことではありませんでした 死とは五月のことではありませんでした。ふつうの子だとか良い子だとか一生が青空の下の野原のように語られても彼は駆け出しはしませんでした。死とは音楽のことではありませんでした。お経だとか無伴奏チェロ組曲だと…

【現代詩】喜びで死んでしまわないように

喜びで死んでしまわないように 母さん わざわざ云わなくてもずっと以前から実践していることだけれど何か気まぐれのような突発的な間違いであってもどうか僕を愛するような身振りをしないで。語るべき時にやさしい言葉をかけて 黙すべきときに良質な沈黙をし…

【写真詩】中原中也詩集付

秋の夜に僕は僕が破裂する夢を見て目が醒めた(「脱毛の秋」) あ〃 おまへはなにをして来たのだと……吹き来る風が私に云う(「帰郷」) 血を吐くやうなせつなさかなしさ。(「夏」) わが生は、下手な庭木師らにあまりに夙(はや)く、手を入れられた悲しさ…

〈 電話恐怖症 〉の当事者研究・試論

先日、WEBメディアの『ひきポス』で、私自身の電話恐怖症について書いた。 WEB検索などで「電話恐怖症」について調べると、基本的には対人恐怖や不安障害の一種として扱われている。「会社にかかってきた電話をとること」、「周囲の人に自分の通話を聞かれる…

【諷刺家ファイル】No.75 風間サチコ「芸術は不発弾だ!」

諷刺家ファイルNO.78 風間サチコ ※敬称略 風間サチコは、1972年生まれの版画家。モノクロの木版画によって、現代日本をターゲットに据えた諷刺的な作品を発表している。2018年には初の作品集『予感の帝国』(朝日出版社)が出版された。 独特なポイントを三…

【諷刺家ファイル】No.57「セックスがなければ子供だって生まれない」不遜なる絵本作家 トミ・ウンゲラー

2019年2月9日、絵本作家として知られるトミ・ウンゲラー(Tomi Ungerer)が亡くなった。87歳だった。 www.asahi.com ウンゲラーは1931年フランス生まれ。56年に渡米し、イラストレーターとして活躍する。その後アリルランドに移住。代表的な絵本に「すてきな…