愛さないことにかけては世界の方が上手

詩人・ライターの喜久井伸哉(きくい しんや)による愚文集

【現代詩】中原中也RPG

   Ⅰ 

柱も庭も乾いている
一刻よりも長い半刻
今日は平穏な好い天気
階段の裏で蜘蛛の巣が
心細そうに揺れている
はいかいいえか選ばずに
中空に瀕死のぼくが浮く

山では樹々もブレスを吐いた
今日は平穏な好い天気
この世のあらゆる四角い影が
あどけないかなしみを傾ける
ここだけがぼくの故里だ
さやかに風も吹いている
よくぞお戻りになられたと
僧侶の熱い声がする

この世を救った帰り道
古びた歓喜の歌声の
粒砂を木靴が踏んでいく
再びくり返されたとて
倒されたぼくがまだ倒れ
迎える笑みの人々はない
胸の澱みにしなだれた
涙の水藻は刈れないか
バーサーカーの巨斧によって

蘇生の声が響けども
扉を開く呪文の未修
炎属性の魔法の杖が
傘入れで秋にしけている
自動攻撃設定で
世界に剣をふるいつづけた
みどりの泡を吐きだすぼくが
乾いたぼくを見つめている
お前はなにをして来たのかと
砂風のドットがぼくに云う

 
   

にび色の秋空に
くり返される同一の風
黒馬の瞳の隣に立ち
同じ言葉をくり返す
村人B-7番の栄達
救世主ああああ様はなんと
偉大なお方であったことか

水涸れて落ちたヒヤシンス
神も魔王も地に残し
清洲の都から逝かぬ
白き空 唖ありて
白き風 冷属性のありぬ
大剣を振りし少年と
この世のよろこび 255

スクロールして同じ居間へと
続いた三千日後の投身
リレミトのあれば渡らぬものを
世界を賛美す口元から
遠大な反復がこぼれてありぬ
町々は同じ伝説に飽かず
子は古里で永遠となる
その魂はいかにとなるか
うすらぎてなおも空の半ばか

勇者 お前は沈黙の
Z7点に立つばかり
橋渡る新しき大陸で
開けてゆく開けてゆく
果てないからっぽの宝箱

 

   

ショップで売るを選ぶと
伝説の盾は1Gゴールド
ぼくの十年の災厄の値段
ふつうの服と木の楯も売り
勇者ははじまりの町なかで裸
ぼくはいくらで売れるのか
魔物に狂う商人の慈愛
さいごにぼくはぼくを売ります
              →はい
               いいえ

商人が一瞬で1Gにした
主人公のいなくなった四角形
世界が滅亡する前夜に
かたまったウインドウ一つきり
魔王は明日を待っている
王女もドラゴンも待っている
同じポイントで手足だけ動かし

つぎはどうなさいますか?
                 かう
              →うる
                 やめる

ぼくは神話よりも待っている
買い戻す1画素の者もなく

 

 

 

中原中也の詩「帰郷」「臨終」等を参照しています。