愛さないことにかけては世界の方が上手

詩人・ライターの喜久井伸哉(きくい しんや)による愚文集

【断想】この世に鳥がいないような悲しみ

 

いつか本物に出会ったとき非難されそうな
僕はいつも自分自身の贋作みたいでいる

 

ぼくは自分を養子に出してあげたい
せめて他人で幸せになってくれたら

 

船酔いをするように自体に吐きそうになる
難破してしまう挨拶の微風もぼくには嵐で

 

僕は世間との共同作業によってぼくの傀儡を操ってきた
美しく統治された領土に芽吹いていく文明開化の輝きを

 

ぼくはたいてい自分の後ろに立っている
かならず頭があるせいで前がよく見えない

 

僕は狂っていないともう一人の僕が言ってやがる
それを論破した瞬間の自分の顔を見せてやりたい

 

清澄白河の大橋を渡っていた子の
この世に鳥がいないような悲しみ

 

僕は見る前に跳んだ
僕の後ろに道はできた
僕は犀の角のように歩んだ
でも 言葉はついてこなかった。