愛さないことにかけては世界の方が上手

詩人・ライターの喜久井伸哉(きくい しんや)による愚文集

2023-03-01から1ヶ月間の記事一覧

【断想】僕の身外にいる人

名刺のためにたくさんの顔を刷る 教育は僕を娼婦にして稼がせることに成功した 僕の趣味は徒労本業とおなじ 自分の顔に不在票をかけておく これは僕と原寸大の牢屋 命の顔料が尽き世界に色がない 僕は自身の身重となって心臓に陣痛だけがある たくさんの足を…

【断想/一行文集】狂っていることにかけては世界の方が上手(うわて)

狂いすぎたせいで一周まわって正常って感じ 自分自身との調停は常に泥沼 また自分の法廷で私が否決された 心療内科へ過去を工事しにいく 金出しゃ誰でも大歓迎!ようこそメンタルクリニックへ! 希望が抱けないなら せめて絶望のバリエーションを増やそうぜ …

【断想】名前のバケツに意味のゲロを吐く

八年間の沈黙の岩盤を爆破するためにはのどにダイナマイトぶち込まないといけないよ あんたの舌先に定住は無理日替わりの真実がマイクラみたいで 言葉の負債を忘却で帳消しにするそのせいで思い出が自己破産する 私はマイナス一ヵ国語の話者 人はこの言葉を…

【断想】舌痛集(ぜっつうしゅう)

舌を喰いしばって生きている 顔中に無数の動かない舌目をおおう舌 耳をふさぐ舌顔面に舌 鼻毛に舌 歯列に舌老いた舌 枯れた舌 流産した舌 除菌した舌 骨折した舌切除された舌 無能な舌 未熟児の舌 統失の舌無機物の舌 去勢された舌 調教された舌 拘束された…