愛さないことにかけては世界の方が上手

詩人・ライターの喜久井伸哉(きくい しんや)による愚文集

【断想/一行文集】狂っていることにかけては世界の方が上手(うわて)

 

 

狂いすぎたせいで一周まわって正常って感じ

 

自分自身との調停は常に泥沼

 

また自分の法廷で私が否決された

 

心療内科へ過去を工事しにいく

 

金出しゃ誰でも大歓迎!ようこそメンタルクリニックへ!

 

希望が抱けないなら せめて絶望のバリエーションを増やそうぜ

 

僕は匿顔じゃなくて無顔なだけ

 

命の油田を見るような若さの湧出

 

土砂降りの陽射しを浴びていた過干渉

 

立ちすくむほかなかった視線の暴風雨

 

あまりの冬に 過去の春まで凍った

 

一枚の舌を国葬しろよ

 

民意ごと灰にした葬儀

 

民騙し 国黙(もだ)す

 

将来への信仰によって 子供は未来の過去を貢ぐ

 

他人を模倣した自分を模範していられるときの自分が好き

 

また明日もデフォルトのオリジナリティで競おうね

 

私たち自分をいじめているのに?

 

自己肯定アプリ使って自己愛を修正しないと

 

私が話せるのはゼロヶ国語

 

人の耳を愚痴の痰壷にしてやがる

 

お前は人の爪の垢を主食にしろ

 

軽口のようにはいかない 重口の物流が行きかう舌の大通り

 

二人の人間がいたとき 関係性の最小公倍数は三よりも大きい

 

瀕死のポケモンみたいにすぐよみがえることになってる二十四時間の休暇

 

うちの近所はコンビニの数よりも煉獄の数の方がちょっとだけ多い

 

死よりは楽しい出勤だったらいいんだけど

 

それ感傷じゃなくてPTSDだろ

 

足腰が弱って老いに追いつかれた

 

時は金なり!メメントモリ!さぁ君も今にゆすりたかりして生き急ごう!

 

難しいのはむしろEDMにノるパーティーピーポーの亡霊と対峙しなくちゃいけないとき

 

マスクをしたいんじゃなくて口を取り外したいんじゃない?

 

自分は間違った生き方をしているという正答を出し続けながら生き延びている

 

僕は実家で丁稚奉公していた

 

うちの親は目だけで手話できたよ

 

母は子供だったわたしに 手をあげるように目をあげた

 

20世紀まで子供を虐待することはできなかった

 

耳の単位は一枚でなく一頭であるべきだ

 

頑張らなかったから倒身出世した

 

断言する 自殺した人間だけは差別していい

 

狂っていることにかけては世界の方が上手