愛さないことにかけては世界の方が上手

詩人・ライターの喜久井伸哉(きくい しんや)による愚文集

【断想】《注意》壊れています さわってください

 

《注意》壊れています  さわってください

 

私ってたぶん病気のサンバカーニバルの通り道になってる

 

被験者としてなら医大の首席だよ

 

私の靴 売ります 未使用

 

うつが心の風邪?どこが?心のALSじゃなくて?

 

毎日スプリンクラーみたいに泣いてる
リビングを芝生にすべきかもね

 

何もせずただ鬱を煮込んでる
もう三年くらい寝かせてあるから
死神には美食になってるんじゃないの

 

あんたは自己憐憫の教習所にでも通ったのか?

 

世間の言葉は大量生産の既製品ばかりだけど
私のパーソナリティは肥大してるんでXLサイズ
オーダーメイドじゃないと収まりがつかないんだよ

 

パートでしか働けない
うつがフルタイムだから

 

自分を軽蔑することに慣らされた

 

せめてどんなふうにわからないかをわかっていこうとしたうえで
徒労だらけの自分なりの「わからない」にたどり着いてくれよ

 

わたしはわざわざ傷つかないでいたことをいちいち傷つくように暮らしをあらためた
そしてわたしは傷ついた

 

コミュニケーション能力とは 言われてもいないことをみんなでいっせいに聴き取れるようになる技術のことです

 

ここにある沈黙を黙読できない人はとにかく黙っていなさい

 

二枚舌とかいうけど 人って平均して八十枚舌くらいあるよね?

 

わかりあわないでいられるだけの関係性を祝して
あなたには私のお気に入りの沈黙を譲渡してあげる

 

ショベルカーとブルドーザーで自分の根が伐採された
整地されて公道になったからこれで社会から轢かれられる

 

サバイバーはブラックオーシャン戦略しかとれねえ

 

私の悲鳴は独学だから
学者さんのいる大学には入っていかないんだね

 

歴史も犯人も原因も外にあるのに
事件の発生現場は私の肉体限定

 

被害者がわたしだけだったことを幸いだったって言うなよ

 

裁判の結果がどうであれ マイノリティは傍聴席に敗訴する

 

批判の声に耳が痛いって?
でも私たちはずっと舌が痛かった


時は流れた 
あんたには年月として
わたしには土砂崩れとして

 

死には処女だから優しくしてほしいけど
でも奴は童貞しかいないから勝手がわからないんだよ

 

世の中の健康のおかげで死にかけた
私はこの病気のせいで生きてこれた

 

 

 

※4つ目の断想にヘミングウェイの作とされる短文を参照