愛さないことにかけては世界の方が上手

詩人・ライターの喜久井伸哉(きくい しんや)による愚文集

2023-08-01から1ヶ月間の記事一覧

【断想集】すべてのクレタ人のための難民申請マニュアル

Photo by Pixabay 「いいえ」と私は言った。 買い物帰りのふとした閑暇に住宅街を見渡せば、むかし故郷で見た懐かしい風情を思わせる質素な家屋の上空に、乾いた北風をともなって浮かぶ豊かな抑揚のついた雲が、気高い天来の趨勢を過度に漂わせながら流れて…

【断想】あまりにも沈黙が大きく育ちすぎたせいで口を閉じていられなくなった

自分と初対面だという日がよくある いつかは忘れられるけど当面のあいだは苦痛でありつづけるタイプの記憶 針の形をした水素が血に刺さっている 心臓は歯と同等の硬度に進化すべきだった 僕の遺伝子だけ螺旋状でなく鍵爪状なのかも 自己に複合されている反自…

【断想】僕は自分に失明することで世界を耐えた

僕は自分に失明することで世界を耐えた涙を流すための器官はもう発見できない 気まぐれな幼年期が時制の柵を飛び越えてやってくるでも退屈しかないとわかってすぐに軽蔑しながら消える 胚胎した幼児が私に産声をあげ郷愁の臨月に涙腺が破水するお前黄泉の入…

【断想】メデューサの耳に聞かれて舌だけが石化する

メデューサの耳に聞かれて舌だけが石化する私たち どうせ沈黙が口を開けるから私はいつも人前で口を閉ざす 動画とTVとチャットとSNSとポッドキャストとスポティファイ聞いて近頃は誰でもプチ聖徳太子やってる 耳なし芳一を教訓にしてたんだけどわたしたち舌…