愛さないことにかけては世界の方が上手

詩人・ライターの喜久井伸哉(きくい しんや)による愚文集

【断想】メデューサの耳に聞かれて舌だけが石化する


メデューサの耳に聞かれて
舌だけが石化する私たち


どうせ沈黙が口を開けるから
私はいつも人前で口を閉ざす


動画とTVとチャットとSNSポッドキャストとスポティファイ聞いて
近頃は誰でもプチ聖徳太子やってる


耳なし芳一を教訓にしてたんだけど
わたしたち舌に書き忘れちゃったね


家畜の舌に餌をやるとき優しくしてるから
奴らは差別なんてするわけないんだってよ


赤い歳月は時に悔恨を濾過しつつ
時に濃縮して致死量に至らしめる


みんなと私はあっちに行かないといけないから
私たちとわたしはこっちに行かないといけません


化学を素人が語るよりも多く
子どもの素人がよくしゃべる


意識的にかいくぐっていかなければ
オートマチズムの舌は抜けられない


けして車の来ない赤信号で三万人が待っている
大昔に子供一人が轢かれかけた交差点だから


子どもの平和と家族の平和と国家の平和が争って
三つ巴の焼け野原を生きさせられている私ら兄弟


平凡な会社員がある朝突然自分自身になってしまったことで
家から出られないまま死ぬまでを描いたファミリー向けコメディ


亡くなった母はいまでも僕にとって太陽だ
それでちょくちょく皆既月食を起こしている

 

――今こそ人生で後悔したことをやってみましょうよ!
――そうかい?それはあの日自殺しなかったことだよ

 

うまくものにするのが職人
うまく物になるのが非正規

 

空気を読んでるじゃなくて空気から読まれているほどのなすすべのなさ

 

あなたを模倣していたわたしを模倣していたあなたを模倣したわたしの模倣がほんのちょっとうまくいかなかっただけのこと