愛さないことにかけては世界の方が上手

詩人・ライターの喜久井伸哉(きくい しんや)による愚文集

【断想】ミネルヴァの鶏

 

SNSに生息するミネルヴァの鶏
いつも朝焼けにバサバサと飛ぶ

 

この国で一番愛されてるのは忘却
そのことも忘れられているから本当

 

他人を押しのけて自分に到達した結果
頂上で振り返れば無数の僕が倒れている

 

人間を産んだのは神だが
神の産婆は人間であった

 

×  家に僕が住めるところを
〇 家を僕が住めるところに

 

目だけ自殺した同級生を覚えてるか?
あいつって今でも喪に服してるらしいよ

 

この世に存在しなかった者の伝記をもとに
この世に存在しなかった者の墓地に祈った

 

僕-身体=x, 僕-精神=y, 
だが x+y は何者でもない

 

ぼくの視力はマイナス0.5くらい
だいたいちょっと過去が見えてるよ

 

ケージに出された餌皿に尾をふり
制服内に飼ってもらう僕をよろこぶ

 

輪郭線を優しくなでてくれた手の平は
いつも少しだけ僕の位置とズレていた

 

老衰によって死ぬように
若衰というべき死因もある

 

いつも過去の自分のコスプレをしてる
推せるだけの今クールがないからね

 

同じですねとあんたは無意識に言った
同じですねとわたしは意識して言った

 

人は過去には目がないもので
美しい昔をコレクションしたがる

 

過去に落とした涙の粒が
未来へのマキビシになる

 

マイノリティをネタにした他人のジョークに傷つくように
人々と笑う私の自演にもっとも近い他人が傷ついている

 

子どもはにらめっこですぐに噴き出すのに
なぜ大人が顔という喜劇に耐えられるのか

 

私の口の中に生えたあなたの舌と
二枚舌のグルになって自分を騙す

 

若いアイアンメイデンたちは抱きしめあって
お互いを血みどろにしながら成長するのです

 

この震災では自己だけが獰猛に震動し
身が輪郭の外に振り落とされそうである

 

わたしの母語に標準語はなかった
家族も別々の方言でしゃべってた

 

寄生体と共生していった平和の果てに
僕はどこまでが自分か見定められないよ

 

舌禍に家族が吹き飛ばされるなか
台風の目のお前だけが無事でいた

 

たかが生
されど死