愛さないことにかけては世界の方が上手

詩人・ライターの喜久井伸哉(きくい しんや)による愚文集

【断想/一行文集】ぼくは間違いなく間違っている

 

四六時中自分の面倒を見ないといけないなんて!

 

僕は自分の身の丈に合っていない

 

僕に自分を外注している

 

慣れない義手みたいに言葉を使っている

 

ぼくは精神科医に病んでる

 

僕はあなたの言語の外で育った

 

舌が焚書にあう

 

ぼくは逃げも隠れもしたい!

 

舌の下にある石に転ぶ

 

子供は舌の下じきになった

 

僕は身と目が合わない

 

身が僕の乱視を見る

 

たぶん蛮族に生まれた方が幸福だった

 

自分の本音は僕に禁書だ

 

自身の舌の味のまずさ

 

神の不在より僕の不在について何か言えよ

 

ありのままの自分という装いに秀でたモデルたち

 

黙祷:死者への声援

 

自分は何者かという苦渋かつ甘美かつ怠惰な問い

 

生を宣誓する産声

 

産声:死の遺言

 

くちびるほど重い棺の蓋はない

 

胎盤は出たけれど

 

SNS……開いた耳がふさがらない

 

軽口が耳まで軽くする

 

舌先を切って逃げたトカゲ

 

針の穴を通す舌先三寸

 

おとこごころと冬の空

 

虎の威を借る虎の舌

 

メモ——言葉は体に悪い

 

無口な歴史が明日を唖にする

 

壁に舌あり 障子に舌あり

 

私は万人における他人

 

寝たきりの舌を専門用語が介護している

 

私の口が言葉から嘔吐された

 

舌の弔辞を告げる黙

 

雷を打つほどの憤激

 

新しい舌の建材が新しい耳を建てる

 

マスクをのどにつまらせた場合の死因は?

 

年をとると幼年期の思い出が成長する

 

文盲者が綴った書物こそ読まれねばならない

 

三ヶ月の孤立死が発見される前の長期の孤立生

 

舌が強弁の防護服を着ている

 

都市の人間は外気が苦手になった

 

人工呼吸器みたいな人工発話器がいる

 

目的地に早く着くためずっと前との車両間隔を接触ギリギリまで詰めるような急ぎ方ばっかりしていた

 

僕は間違いなく間違っている