愛さないことにかけては世界の方が上手

詩人・ライターの喜久井伸哉(きくい しんや)による愚文集

【詩】そして細雪のように殺せ

誰か僕を呪いにしてくれ
この世を耐えられる者にしないでくれ
どうか地上の怨念にしてくれ
こんな国土から成仏させないでくれ
怒りで舌が燃え尽きて
焼け野原になったっていうのに
灰になってもなお延焼し
悪口の熱はおさまらない
ろくでもない高慢さで
煤になっても語ろうとする
いつか塵の先ぶれが風に散って
お前の耳元に揺れたとき
どうせ透明な遠吠えが聞こえるだろう
そしてその声にそそのかされて
お前は細雪のように
細雪のように殺せ
大量の重さで 甚大な期間で 陽の差さない真冬の曇天の陰鬱さのように殺せ 
あばら家を潰すように 幼い少女の白い嘆息のように殺せ 
雪崩ではなく 氷河ではなく つららではなく はかない雪片のように殺せ
革命ではなく 暴行ではなく 手の中で風から守られているささやかな灯のように殺せ 
不意に百合が首を落とすときのようにはちあわせろ
地べたに落ちるときの花弁の震度のように体重を乗せて刺せ
そして細雪のように
細雪のように殺せ
細雪のように
細雪のように殺せ