愛さないことにかけては世界の方が上手

詩人・ライターの喜久井伸哉(きくい しんや)による愚文集

【断想】顔病

 

昨日に僕は戻る
そしてそこには誰もいない
誰とも待ち合わせていない
昨日に僕は戻る
そしてそこには誰もいない
昨日で僕は待っている
そしてそこには誰もいない

 

   ♦

 

顔の影が
体の影に影をおとす

 

   ♦

 

僕は顔が閉まっていた
鍵はあなたたちしか持っていなかった
なのになんで外から壊したんですか

 

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僕が僕を見て見ぬふりするようになった

 

   ♦

 

ぼく作のぼくじゃいけなくて
あなた作のぼくで正解でしたよね
でも世界があなた作じゃないから
ぼくはぼく作の世界を作るほかなかったです

 

   ♦

 

出会いとは冬
ぼくを重ね着して
着て
重ね着したときには
何枚もの上辺であたたかくなれます

別れとは春
ぼくを脱いで
脱いで
脱いだときには
ここに誰もいません

 

   ♦

 

僕たちの未来にはいつも
輝く赤信号が点灯している

 

   ♦

 

今は沈黙にうたわせておけ
明日は沈黙も黙っていないといけないから

 

   ♦

 

夜が沈潜し
(ぼくに顔が見つかる)。
誰からも見つけられたことがない 
(のは二番目の悲しみにすぎない)。
誰からも探されたことがない
(ってことがあの泣き顔の理由だろう)。

 

   ♦

 

-243°

 

   ♦

 

自分の顔しかなくって
お前は顔病だといわれた

 

   ♦

 

顔のたし算
顔のひき算
おぼえました

四捨五入顔
約分顔
最大公約数的顔
合格しました

あなたのプラスの顔と
他人のプラスの顔をかけて
マイナスの顔できました

 

   ♦

 

知ってますか?
ぼくの顔にはもう
表面張力がありません。

人体で顔だけが発狂すると
定義から人間があぶれます

 

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僕は 顔 だ
けで溺れ
ることがあるよ

 

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自分を後ろ前さかさまに着ている

 

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この顔には顔が足りない

 

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また顔がない

 

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顔が尽きる

 

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顔が枯渇している

 

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顔が表面であったことがない

 

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自分の顔が定位置にあることを確かめる
(つまりあなたに)

 

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ひとつの瞳に多すぎる涙
ひとつの顔に多すぎる顔

 

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誰もが去っていった僕に
僕だけが居残りをしている

 

   ♦

 

ぼくはぼくの顔を移植したよ
体は元のまま
心も元のまま
ハッピーエンドしかありませんから
皆さんに感謝です
ここにいる人が誰か存じないですけど
ぼくは上手にはじめましてってできます

 

   ♦

 

人に会うことは
孤独ほど難しくない時もある

 

   ♦

 

残り1ピースだけなくて
お前のパズルは不完全だと言われた。
だからぼくはパズルを捨てた。
でもそんなあとで引きだしの中から
最後のピースを見つけてしまう。

お前のパズルを作れと言われて
ぼくは指示に従っている。
あと2万ピースちょっとを探すまで
ぼくは人から不完全だって言われている。

 

   ♦

 

タイムマシンで今日に連れてってくれ
ここにいる人は命との誤差が大きすぎた
昨日にたどりつけないくらいに
自分が明日のここにいない

 

   ♦

 

生まれたあともぼくは逆子だったみたいで
生き方までさかさまになっていたんです

 

   ♦

 

ぼくにはハイド氏とハイド氏がいた
二人は悪者をやっつけてくれたよ
だからさよなら

 

   ♦

 

きのうにぼくは戻る
そしてそこには誰もいない
誰とも待ち合わせていない
きのうにぼくは戻る
そしてそこには誰もいない
きのうでぼくは待っている
そしてそこには誰もいない