昨日に僕は戻る
そしてそこには誰もいない
誰とも待ち合わせていない
昨日に僕は戻る
そしてそこには誰もいない
昨日で僕は待っている
そしてそこには誰もいない
・
笑顔は口よりも大きい
まなざしは目よりも重い
大きさと重さで
子供の顔はつぶれた
・
ぼくは社会から自分すぎて
ゆえに自分から他人すぎる
・
大人たちの目がまなざしを着て
子供の顔は粛清される
たくさんの隊列のために用意された
制服は僕の分もある
・
自分が他人たちの真ん中に立つとき
僕ははじっこにいるようにしている
それで他の人たちの顔と一緒に
僕の顔が僕であるものをあざ笑える
・
いつのまにか痛かったのは
銃弾の幽霊がぼくをつらぬいたせい
いまでも透明に痛んでいるのは
先生に祓っていただいたせい
・
僕は僕の顔を演じている
僕ではなく
・
乾いた砂を素手で必死にかためていって
それでできあがるものがしょせん砂の城でしかないような調和
・
仮面を重ねていくと顔になる
偽証を重ねていくとまなざしになる
他人を重ねてできあがる自分の
虚栄を重ねてできた人生の果てにある死
・
子供:丸腰の人間。
・
頭がいっぱいであるみたいに
ぼくはもう顔がいっぱいです
・
みんな全身が顔になっていていいな
あの子たちは教室で顔を鍛えられた
ぼくも体は卒業したけど
今もまだ顔が留年してる
・
母乳だけじゃない
こどもは
まなざしを飲んで大きくなる
・
ちょっと待ってもらえる?
いま僕の顔むこうにあるんだ
・
まなざしがかた結びされて
僕は母の顔から離れられなかった
・
その舌の根にはいつも装わない顔が収納してある
・
あの子は家族の誇りだったんです
誰からも望まれた優秀な家畜で
・
母は我が家の幸福の調教師だった
・
大人になってから出している青色申告
それが僕という人間の飛び地
来るなら夕暮れの便でやってこいよ
お前を離陸させる航空便が必ずある
通知表をもらわなかった子供がいたでしょう?
あれが僕という人間の本土
その国にだけはパスポートがない
その国に帰る舟は必ず沈む
・
昨日に僕は戻る
そしてそこには誰もいない
誰とも待ち合わせていない
昨日に僕は戻る
そしてそこには誰もいない
昨日で僕は待っている
そしてそこには誰もいない