昨日に僕は戻る
そしてそこには誰もいない
誰とも待ち合わせていない
昨日に僕は戻る
そしてそこには誰もいない
昨日で僕は待っている
そしてそこには誰もいない
・
顔に震災するあらぶれに
ぼくはいつもぼくの震度だった
破砕された一生のつじつまに
涙にあらがえるまなざしがない
・
僕の悲しみの海抜に
頬骨の陸地は達しない
まなざしの命綱が投げられて
水底から顔を救い上げるまで
ここにあざなえる漁火(いさりび)もなく
・
僕の顔が社会に習熟する
首の上の敷地に表情を建て
家の補修を繰り返す一生
あなたも僕の顔に顔を建てていく
いつか僕はそこに移り住みたい
・
僕ら歩兵たちは生を偵察する
戦地を共に過ごす相棒は
出方をうかがって後方で待つ
僕はやめておけと合図を出す
決して今は来るな
決してここには来るな
そしてその子供は必ず言うことを聞かない
・
人体で顔だけが死ぬってあるんだよ
僕は生きている
表情も生きている
ほほえみも生きている
まなざしも生きている
でも顔だけが死ぬってあるんだよ
・
顔 : 顔
・
ぼくの将来はバラ色
とはいえ
最近じゃ黒色の薔薇も発明されている
ぼくの現在は虹色
とはいえ
ぼくは色盲
ぼくの過去はクレーター
とはいえ
ぼくの住み処はそこにしかない
・
お顔山(頭山)
ぼくの顔から茎が生えのび
つくり笑いをすると枝葉がゆれた
祭りをしていた奴らを拒み
顔から木をひっこぬくと
とりかえしのつかない穴があいた
顔をなくしたぼくの淵で
ぼくも誰もと宴をする
よろこびの祝杯をあげるぼくの顔から
ふたたび茎が生えのびるまで
・
迷子(ヘンゼルとグレーテル)
森で迷わないように
ちぎったぼくを落としていった
鳥たちが自分にしていくから
ぼくは帰り道が分からない
お菓子の家にたどりつき
ぼくは他人を渇望した
ぼくは他人の残飯にも
口いっぱいにむしゃぶりつく
ぼくであれなくなることは
他人でいられなくなることだ
・
昨日に僕は戻る
そしてそこには誰もいない
誰とも待ち合わせていない
昨日に僕は戻る
そしてそこには誰もいない
昨日で僕は待っている
そしてそこには誰もいない