愛さないことにかけては世界の方が上手

詩人・ライターの喜久井伸哉(きくい しんや)による愚文集

【現代詩】 大変身 (詩集『ぼくはまなざしで自分を研いだ』収録作)

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   大変身

 

ある朝平凡なぼくが目覚めたら
ぼく以外の全員が虫になっていた。
それでこの世界でただ一人
ぼくだけおかしくなったと言われた。

お前がすこしでも我々を
わかってくれたなら良いものを。
人間であるという不備に
どれだけの触手が検診したか。

ぼくは汚辱の二足歩行で
昼のリビングの真ん中に立つ。
生身の皮膚が疲れることを
バッタたちの羽は解さない。

ぼくは冷蔵庫の横で
母の脱皮した殻を踏む。。            
夜着にもポケットがついているのだ。
ぼくはこの闘争でも敵側につく。

自分と社会とのあいだには
せめて硬化した服がいる。
窪んだみぞおちに中肢を生やし
朝食は巨大ヤスデの腹。

害獣の毛に抱かれて
妹はよろこびの体液を吐く。
人間よりも耐えられる者へ
ぼくは肋骨に脚をかけて投身する。

世界中ぼくには異形でした。
剥きだしの他人には耐えられません。

(後略)
                  人間

 

 

 

 

 

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(Photo by Pixbay)