愛さないことにかけては世界の方が上手

詩人・ライターの喜久井伸哉(きくい しんや)による愚文集

【現代詩】私に人間を下さい

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私に人間を下さい
二月より短くてもかまいません

私に人間を下さい
慈愛によって野良猫に投げてやる残飯の速度で 
駐車場の脇に転がってもこちらで拾います
切って離れたところに飛んだ爪のぞんざいさで
持ち上げて髪の毛がまざっていても
指でつまんで引き剥がすのはこちらでやります

私に人間を下さい
あなたの友人につけられる利子よりも過小でかまいません
もし地上が不快さで充ちていなかった瞬間がつかのまでもおありの方なら
手持ちぶさたのときに輪ゴムを伸ばして暇つぶしした弾力よりも弱く
口笛を吹いたときのエネルギーの総量より少なくていいです
通りすがりに舌打ちされる際の口蓋の負担を分け与えてください

私に人間を下さい
虫の舌ほどの逼迫した密度でなくてもかまいません
色落ちしていても引きとります
私に人間を下さい
私が呼吸するのはそれからです。