愛さないことにかけては世界の方が上手

詩人・ライターの喜久井伸哉(きくい しんや)による愚文集

【詩】そして細雪のように殺せ

誰か僕を呪いにしてくれこの世を耐えられる者にしないでくれどうか地上の怨念にしてくれこんな国土から成仏させないでくれ怒りで舌が燃え尽きて焼け野原になったっていうのに灰になってもなお延焼し悪口の熱はおさまらないろくでもない高慢さで煤になっても…

【断想】顔と僕

昨日に僕は戻るそしてそこには誰もいない誰とも待ち合わせていない昨日に僕は戻るそしてそこには誰もいない昨日で僕は待っているそしてそこには誰もいない ・ 顔に震災するあらぶれにぼくはいつもぼくの震度だった破砕された一生のつじつまに涙にあらがえる…

【現代詩】時ははやくすぎる 光る星は消える ぼくにもういちど顔を投げろ

詩集『ぼくはまなざしで自分を研いだ』(2020年)より 時ははやくすぎる 光る星は消える ぼくにもういちど顔を投げろ 何のために生まれて何のために生きるのか。大人になって自分を食べて涙のぼくは救われる。首をはねられても熱いこころみんなの夢を守るた…

【詩】詩人・山村暮鳥作「風景」と内閣総理大臣・岸田文雄作「風前」

風景 山村暮鳥 いちめんのなのはないちめんのなのはないちめんのなのはないちめんのなのはないちめんのなのはないちめんのなのはないちめんのなのはなかすかなるむぎぶえいちめんのなのはな いちめんのなのはないちめんのなのはないちめんのなのはないちめん…

【現代詩】だからぼくは品詞

だからぼくは品詞 高いところから落ちて生きものが壊れる音をだす天井からも侮辱を受けていた透明な疲れでできていた昼 僕が僕しようとすると僕は僕しなくなった死体にはならなかったけど素通りしていった死がからだにたくさん残っている みなさんの形容詞を…

【現代詩】矜持集

止まない雨があったとしてそれが何だっていうんですか。明けない夜があったとしてそれが何だっていうんですか。 全身はいつだって全身だし全霊はいつだって全霊です。全身全霊で雨の夜を行くかつてそうでなかった日などありません。 ♢ その墓代を今日くれ香…

【現代詩】ポエムとかww

もう解決策としては発狂する方向でいこうか?マイ身体にはこれ以上荷えないってわかってるじゃん2.5次元俳優の男の子が目の前で踊ってくれても救われない正直気はまぎれるだろうけどそれでもなお死にたい気分のまま 私はやっぱり人間と出合ったことがないと…

【現代詩】GAFAに疑問をお持ちの方のための現代詩による自動ご返答サービス

思ったより綺麗なディストピアを創ってくれたグーグルに感謝除毛クリームを買った32歳9か月の女性にだけこっそり教えてくれる原始の秘密産まれてきたかった現世は少なくともこの時代のこの国ではなかったけど生活がからっぽになる分だけアプリでいっぱいにな…

【現代音楽】呼吸合唱曲(文章による楽譜)

上演の必要条件 ・多様な音域の歌い手数十名をそろえなさい。 ・演者は舞台上で音声を発してはならない。 ・小規模なコンサートホールの狭い舞台に、大勢の者たちを密集して並ばせなさい。出演者の口を覆う物も、お互いのあいだに置かれる仕切りも、客席との…

【漢詩】山河破れて国在り(杜甫「春望」パロディ)

春亡 山河破国在城春森闇深時感川涙濺別恨啼鳥驚峰火三月連公書万金障禿頭掻逆長欲不勝五輪 山河破れて国在り城春にして森氏の闇深し時に感じては川が涙を注ぎ別れを恨んでは啼鳥に驚く峰火 三月に連なり公書 万金に障る禿頭を掻けば逆に長くなり五輪まで勝…

【現代詩】 大変身 (詩集『ぼくはまなざしで自分を研いだ』収録作)

大変身 ある朝平凡なぼくが目覚めたらぼく以外の全員が虫になっていた。それでこの世界でただ一人ぼくだけおかしくなったと言われた。 お前がすこしでも我々をわかってくれたなら良いものを。人間であるという不備にどれだけの触手が検診したか。 ぼくは汚辱…

【現代詩】私に人間を下さい

私に人間を下さい二月より短くてもかまいません 私に人間を下さい慈愛によって野良猫に投げてやる残飯の速度で 駐車場の脇に転がってもこちらで拾います切って離れたところに飛んだ爪のぞんざいさで持ち上げて髪の毛がまざっていても指でつまんで引き剥がす…

【現代詩】心の壊し方を教えてください

(Photo by Pixday) 心の壊し方を教えてください未だ私には悲しめるほどの心が残っています痛みを避けたいと思ってしまうほどの理性も明日が来ることにおびえてしまう恐怖も私には未だ残ってしまっています 涙の枯らし方を教えてください肉体の源は尽きてい…

【現代詩】伝統

伝統 国を食べなさい。国の足の裏を食べなさい子供たち。タンポンのように詰め込んで麻薬を密輸するために満杯にしたはらわたのようにすこやかに育ちなさい。住みなさい子供たち。微生物が鼻腔にびっしりと張り付いているようにしっかりと国になりなさい子供…

【現代詩】有名だからカフカを読んでみたけど全然面白くなかったしどちらかというと嫌い

有名だからカフカを読んでみたけど全然面白くなかったしどちらかというと嫌い 誰か私に謝ってほしい。頭を下げて心からの謝罪をして私を明確に世界の被害者に固定してほしい自己責任でも思慮の欠如でもない0対10の過失の決定を 朝のポストには集団からの謝罪…

【現代詩】本当に美しい人生を生きていたらインスタの加工なんてやっている場合じゃない(「中絶」と検索したことのあるすべての人生に)

本当に美しい人生を生きていたらインスタの加工なんてやっている場合じゃない(「中絶」と検索したことのあるすべての人生に) 自分の人生が映画に値していない時によく観るネットフリックス誰からも物語られないとわかっている時にはかどるキンドルいつだっ…

【現代詩】不要不急の薔薇

不要不急の薔薇 薔薇は担保にならない。紙幣でもなければPayPalの1円にもならない。不動産の契約書ではないしAmazonポイントでさえない。ボードレールの全行は人生に如かず飢えている者にとって文學は無意味だ。 詩の言葉は徹底的に役立たずであり試験と違っ…

【現代詩】引き潮

引き潮 昨日はひどい津波だったと明日の人間が語っている。私はまだ名前を発見できない今日の引き潮を生きている。 人々は火山灰のようなものを恐れ通り魔のようなものに身構えていた。街は震災のように荒廃しいずれでもないものによって被災地だった。 皆が…

【現代詩】最低限度の酸素的な生活 (新型コロナウイルスの感染拡大に伴う文化的な防衛活動の実施 2)

最低限度の酸素的な生活(新型コロナウイルスの感染拡大に伴う文化的な防衛活動の実施 2) リモートワーク中に克己心をダウンロードしておいてよ春が来てもローディング画面から動かない私の人生は5Gでも挙動がままならない自己に忙殺されている常住坐臥 …

【現代詩】新型コロナウイルスの一人称による国際政治へのオード(感染拡大に伴う文化的な防衛活動の実施)

新型コロナウイルスの一人称による国際政治へのオード(感染拡大に伴う文化的な防衛活動の実施) 私達がまだコウモリにぶらさがっていられた頃は人々は唾を交わせながら交尾していられたいかなる時代であっても嬰児は丸ごしで生まれ微力な呼吸器しか持たない…

詩集『ぼくはまなざしで自分を研いだ』を発表しました

詩集が出ました。 書籍情報題名:ぼくはまなざしで自分を研いだ(ぼくはまなざしでじぶんをといだ)著者:喜久井ヤシン(きくいやしん)制作:子ども若者表現応援基金ページ数:132pサイズ: 12.8 × 18.2 × 1.0 ㎝※本書は「子ども若者表現応援基金」の助成…

【現代詩】いのちなしせたまひそ

海のすべてが墓石になってもかなしみにはちいさすぎる 遺体とはわたしのことこの世に遺されてしまったなすすべのない者のこと イザナギノミコトと化せるなら黄泉などかるがると越えていく どうか魂になどならずとおい星になどならずただの肉体でここに居よた…

【現代詩】中原中也RPG

Ⅰ 柱も庭も乾いている一刻よりも長い半刻今日は平穏な好い天気階段の裏で蜘蛛の巣が心細そうに揺れているはいかいいえか選ばずに中空に瀕死のぼくが浮く 山では樹々もブレスを吐いた今日は平穏な好い天気この世のあらゆる四角い影があどけないかなしみを傾け…

【現代詩】 誤答(終戦は終わった)

誤答 何人までが殺人で何人からが英雄か。どの線までが愛国でどの線からは敵国か。 ひらがなでかかれていたつちのうえカタカナにさせるアノデキゴト。文字にならない声を集めて歴史のマス目は埋められた。 テストのために子供たちは正確な偽書を暗記していく…

【詩】椅子 あいちトリエンナーレ 「表現の不自由展・その後」中止に寄せて

椅子 いまも世界で 誰かが椅子に座っている。 一生をともにするかもしれない出会いの椅子にも遺恨を残す追憶の椅子にも。 南向きのテラスにそなえたベンチ。子どもたちがステージを観る劇場S席。病院の廊下に並ぶ細長いオレンジ。夜行を待つ人々への慰撫。大…

【現代詩】死とは五月のことではありませんでした

死とは五月のことではありませんでした 死とは五月のことではありませんでした。ふつうの子だとか良い子だとか一生が青空の下の野原のように語られても彼は駆け出しはしませんでした。死とは音楽のことではありませんでした。お経だとか無伴奏チェロ組曲だと…

【現代詩】喜びで死んでしまわないように

喜びで死んでしまわないように 母さん わざわざ云わなくてもずっと以前から実践していることだけれど何か気まぐれのような突発的な間違いであってもどうか僕を愛するような身振りをしないで。語るべき時にやさしい言葉をかけて 黙すべきときに良質な沈黙をし…

【写真詩】中原中也詩集付

秋の夜に僕は僕が破裂する夢を見て目が醒めた(「脱毛の秋」) あ〃 おまへはなにをして来たのだと……吹き来る風が私に云う(「帰郷」) 血を吐くやうなせつなさかなしさ。(「夏」) わが生は、下手な庭木師らにあまりに夙(はや)く、手を入れられた悲しさ…

【現代詩】「(弔うことのできない死があって)」他一編

今年書いた詩、「(弔(とむら)うことのできない死があって)」と「あとかた」の二編を掲載します。 ♦♦♦♦♦ (弔うことのできない死があって) 弔うことのできない死があって喪上がりはまだおとずれていない。遺体のあがらない死があって僕は悲しみきること…

【写真詩】髙木敏次『傍らの男』付

もしも 遠くから 私がやってきたら すこしは 真似ることができるだろうか (「帰り道」) 知らない人によりかかって その人を 知っている人のようにおもいたい (「その人」) どこからでも見えるが 私だけが見えない (「男」) 死んだ人が 生きている真似…