愛さないことにかけては世界の方が上手

詩人・ライターの喜久井伸哉(きくい しんや)による愚文集

【現代詩】「黒い虹」「平地」

先日「東京レインボープライド2018」を鑑賞した。そのことは「ひきポス」の記事でも取り上げている。

私の空にかかる虹は黒色 「ひきこもり」とセクシャルマイノリティ① - ひきポス -ひきこもりとは何か。当事者達の声を発信-

参加して楽しかった……という感想で終われるものでもなく、憂慮と寂寞(せきばく)を受けて二編の詩を書いた。
2018年5月、以下にその作を載せる。

 

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   黒い虹

私の
私の黒い涙
私の
私の頭部よりも大きな涙

私の黒色を
私は泣ききらないといけない
どんなに晴れわたる五月も
私の夜明けではない
私の
空にかかる黒色の虹
私の
空にかかる一色の虹
六つの分断
日本が一色であるほどに
六種の血の色だけが染める
歩いていく街にかかげられる色はまだ一色
私の
石になった黒い花
私の薔薇
昨日だったという暗い日をこえて
明日という暗い日がやってくる
私の
夜であるものがあなたの昼
私が「生まれつき」彼を愛したように
彼も「生まれつき」私を愛さないただそれだけのこと
私の
真夏の黒い細雪

雪の一片よりは重かったか今生

雪の一片よりも意味だったか一生
私の黒い昼に
涙では足りないものを泣かないといけない
足では歩めないものを行かないといけない
これほどまでに私をあたためない黒い太陽
これからの暦を私は私の冷たさ以外のなにでむかえることができるのか
私の

生まれかわらなくていい
まだ投身しなくていい

ただこの黒い虹のもとで
涙が私をおおっている五月をゆるして


               2018.5.6

 


   平地

私は
これ以上ふつうを教わらなくていい
私は
もう平凡を叩き込まれなくていい

それは教える側になれるほど覚えおわっている
私は
もう調教されないでいい

私は
輝かしいと言わない
特別だと言わない
私は
そして私たちは
美しいと言わない
あなたの立つ高地まで登頂する遠さを知っても
私たちは自分の大地を素晴らしいと言わない
清らかだと言わない
私は
平凡だと言う
私は
平然としていると言う
私たちはふつうだと言う
私は
それがどのような山地なのかもう勉強しない
私と私たち
私と私たちは
いかなる少なさにあってももう自分自身たちの美しさにはひれふさない
あなたたちが教授するように天才でもカナリヤでもなく
私は
立っていることのみによってあなたの目を垂直にまなざしてみたい
私は
あなたが椅子に座るように座ってみたい
あなたが歩くように歩いてみたい
私は私たちはあなたのそしてあなたたちのまなざしを負わずに
私は
ただ立っていることのみを達成してみたい
ただ手をつないで歩くことのように
ただ歩くことのように
ただ在ることのように
私たちは

私は
 

               2018.5.9