愛さないことにかけては世界の方が上手

詩人・ライターの喜久井伸哉(きくい しんや)による愚文集

【写真詩】「ヒルデ・ドミーン詩集」付

自身で撮影した2018年1月前後の写真に、ヒルデ・ドミーンの詩からの抜粋を込め、写真詩として掲載します。ヒルデ・ドミーンは20世紀ドイツの女性詩人で、簡潔な言葉から高貴な詩風を築き上げています。代表作『薔薇だけを支えとして』は、芸術であり愛であるものの象徴を賛嘆し、他に何物も自らを支えるものがなくなろうとも、「薔薇」のみを支えとしてこの世に立つ、という精神の膂力(りょりょく)を支持した作品です。

 

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   苦しみは私達を
   窓のない家に葬る (窓のない家)

 

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   言葉と言葉
   の間に
   張られた
   言葉でないもの (抒情詩)

 

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   それを語るであろう人は
   誰も私達のあとにやって来ない。 (誰も私達のあとにやって来ない)

 

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   沈んでしまった町
   私にとって
   ひとりでに
   沈んでしまった

   私は
   これらの街を泳ぐ。
   他の人達は歩いて行く。 (ケルン)

 

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   たおやかな雲が
   私を捕え、
   そして幸福は
   私の心に
   その小さい歯を立てる。 (風の贈り物)

 

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   大陸がある、
   そこで私は受け入れられるに違いない、
   旅券なしに、
   雲だけを保障に。 (雲を保障に) 

 

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   私の手は
   支えを求め
   薔薇だけを支えとして見る。 (薔薇だけを支えとして)

 

 

 

引用文献
『樹はけれども咲く―ヒルデ・ドミーン詩集』高橋勝義, 高山尚久訳 土曜美術社出版販売 2002年