愛さないことにかけては世界の方が上手

詩人・ライターの喜久井伸哉(きくい しんや)による愚文集

【現代詩】新型コロナウイルスの一人称による国際政治へのオード(感染拡大に伴う文化的な防衛活動の実施)

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新型コロナウイルスの一人称による国際政治へのオード(感染拡大に伴う文化的な防衛活動の実施)

 

私達がまだコウモリにぶらさがっていられた頃は
人々は唾を交わせながら交尾していられた
いかなる時代であっても嬰児は丸ごしで生まれ
微力な呼吸器しか持たない無防備な笑いの息を吐く

こんなにも小さな体でもたらすことができた重たい記憶
私達は令(うるわ)しい時代の空気感に空気で刻印することができた
猜疑心がいっぱいになるほどスーパーの棚は空っぽで
息を吸うためのスペースが東京にも供給されている 

地球はいつからこれほど多くの壁が築かれていたのか
すでに隣人の水晶体の中にも壁の建設が開始されている
きっと人が備蓄するべきなのはマスクよりも思いやり
それはメルカリで転売できない無価値な永久在庫品 

あれだけ頑張ってとったチケットなのに返金に応じていないと言っても
どれだけ善良な死も一度受け付けたものを返さないことに比べればマシ
アマゾンの面積減少によって追われてきた私達だけど
Amazonの販路拡大によって世界中で負われるようになれた 

「雲は国境の上を流れる」という古詩が新型でも模範
ただし悠々閑々たる雲のように山河を超えていくのではなく
私達はパスポートを提示した者によって航空機で飛んでいく
そして飛び交うのではなく自治区ごとに定住するのが規範 

人と人とが息しあっていくことの難しさを顕現させた功績と
手をとりあって共にあることこそが逆効果になるという皮肉によって 
私達はバンクシーよりも過激なゲリラアートを都市部に散布した
それで世界中の政府があらゆる街角のために高額な落札を強いられている 

すでに密閉されたSNSの一元化酸素中毒になっているにせよ
二つの目を隠すためのマスクが大量に必要となるのも当然でしょう
他人のすぐそばで息を吸い込むことは前から怖がっていたのに
この国の通常の空気の蔓延にはどうして気をつけていなかったの?

唾飛ばす政治家達が人の風上に立ち上がり
国民は山頂から吹き降りる大いなる風を浴びていく
私は千代田は汚いから近寄るなと子供に言い聞かせています
「失われた30年」になるのは何も私達のせいではありません 

人間が他者を必要とするところに私達の栄光があり
孤独を生き切る者たちによってのみ私達の敗北がある

  相知無遠近 万里尚為隣

 そうです私達だってすぐそばにいます
『国民一丸となって』と言わせられていただけるだけのこの国の空気を深々と深呼吸していた昨日のあなた方のおかげで。

 

 

 

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(画像 Pixabay)