愛さないことにかけては世界の方が上手

詩人・ライターの喜久井伸哉(きくい しんや)による愚文集

【現代詩】最低限度の酸素的な生活 (新型コロナウイルスの感染拡大に伴う文化的な防衛活動の実施 2)

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  最低限度の酸素的な生活新型コロナウイルスの感染拡大に伴う文化的な防衛活動の実施 2)

リモートワーク中に克己心をダウンロードしておいてよ
春が来てもローディング画面から動かない私の人生は
5Gでも挙動がままならない自己に忙殺されている
常住坐臥 いかなる人間も足の裏はフリーランスです

何よりも大切だった空気が死後はないがしろにされるなんて不当じゃない?
たぶん神道は空気を埋葬して古墳でも建立するべきでしょう
私も土の中に空洞を用意して昔なじみ達と悼みます
富岡八幡宮で勝手に埋めたタイムカプセルはその予行演習だった

自分の養育費を実費で支払わされてきたわりに
自宅で実子を育みたい時には国家からネグレクトされている
自己責任の有無に関してだけはとても自由な自治圏ですよね
自らの民のための党が自主的に民の主になっているだけのこと?

どこか桃の腐臭みたいな香ばしい官能を含みながら
放尿に濡れていく股の異臭が鼻腔にまで届くタヌキ様の朝
二拝二手一拝だけだと気づいてもらうのに足りないかも
私の国の空気にはいつも私のものじゃない空気が流れていた

あなたにはあなたのあなたがあるし
あなた達にはあなた達のあなた達がある
とはいえ私に私の私がなくなっていて
空気をコピペした「私」達が「私達」の犠牲になっていく

『 「        、       ?」
「            。     !」
「  。               」「                                   !」』

大学を出て1年もしたら沈黙を常備するようになるもの 
今の私が熟読するようになったのは小説じゃなくて空気
私の涙や言葉が土でできているならまだしも
現制空権を少しでも埋めたてることができたでしょう

一致団結して息の根を自粛することだってできるし
自個を自制できるだけの教育はみんなと受けてきた
でも自粛するのは呼吸であって言葉ではないはず
冷たい大気に生身の魂を燃焼させている者にとって
文化が不要不急であったことなどこの世に一例もありません

 『 「              。       」「                                    」』

言葉まで3密に組さないように
正規雇用者にも横隔膜を再配分してください
最低限度の酸素的な生活を享受する権利を
舌の裏側に「いいえ」を仕込んでいられるだけの時給をね

 

 

 

(画像 Pixbay)