愛さないことにかけては世界の方が上手

詩人・ライターの喜久井伸哉(きくい しんや)による愚文集

【現代詩】引き潮

 

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   引き潮                

昨日はひどい津波だったと
明日の人間が語っている。
私はまだ名前を発見できない
今日の引き潮を生きている。

人々は火山灰のようなものを恐れ
通り魔のようなものに身構えていた。
街は震災のように荒廃し
いずれでもないものによって被災地だった。

皆が自分のせいではないと言い
大きな寺院にも人がいない。
見えない海のようにやってきたために
誰もが各々の陸地にしがみついていた。

言葉まで失くしてしまわないように
ひそめるのは呼吸だけでいい。
私に世界が変えられないとしても
世界に私が変えられてしまわないように。

そして私は明日語るだろう
この深甚な引き潮のことを。

 

 

 

新型コロナウイルスの感染拡大に伴う文化的な防衛活動の実施3  KIKUI Yashin/画像 Pixbay