愛さないことにかけては世界の方が上手

詩人・ライターの喜久井伸哉(きくい しんや)による愚文集

【詩】一匹の子豚と九匹の豚野郎によるオープンダイアローグ

 

長男は耳を藁でふさいだ
次男は耳を木材でふさいだ
三男は耳をレンガでふさいだ
 しかし オオカミの声はすべてをつらぬいた

四男は耳を鉄でふさいだ
五男は鉄筋コンクリートでふさいだ
六男は必死に怒鳴り返した
 だが 声はすべてをつらぬいた

七男は防音室に立てこもった
八男は無音の宇宙に飛んだ
九男は耳を引きちぎった
 それでも 声はすべてをつらぬいた

一方長女は
ただ座った

声ははじめて言葉となり
何もつらぬくことがなかった

 

   ・

 


耳ざわりでありなさい
目ざわりでありなさい
口ざわりでありなさい
身ざわりでありなさい
人の気にさわりなさい
自分が自分自身に
さわっているためにはね

 

  ・


わたしの暗がりの夢を語ってもいい?
嘆かわしい口腔の夜から
いつかかわいい太陽が昇り
舌の丸い地平を明るく照らすことを

ひらかれたくちびるから光かがやき
人々の目と耳をくらませ
ここにある暁があまねく照らす
夜明けのように殺菌のように
歴史の北極が破壊されることを

平和な白夜が巡るたびに
それは叶わない夢だと思い知らされるけど
この口蓋には太陽の種が眠っている

わたしの暗がりの夢を語ってもいい?
地上を破滅させる舌の夜明けを

 

 

 

 

 ●2023年5月21日開催〈文学フリマ東京〉に参加します

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