断想
この舌には棘だけが生え伸びる薔薇もなしに 身体のハードに無理やり適合させて再起動した本当は互換性のないソフトウェアみたいな自己 自分が自分を人質に取って自分を恐喝する試みにやっと成功したとき三人の自分が被害者になっていた 狭小な新疆自分自治区…
友達の悲劇に目を疑い家族の不条理に耳を疑い大人の口を疑う日々の結果自分だけを疑うようになった トラウマの万年雪にフラッシュバックの雪崩病いの豪雪地帯でビーチサンダルを渡される 世相の油を飲み干して私の舌に火事が起きた凍てついた世論に延焼し燃…
長男は耳を藁でふさいだ次男は耳を木材でふさいだ三男は耳をレンガでふさいだ しかし オオカミの声はすべてをつらぬいた 四男は耳を鉄でふさいだ五男は鉄筋コンクリートでふさいだ六男は必死に怒鳴り返した だが 声はすべてをつらぬいた 七男は防音室に立て…
四六時中自分の面倒を見ないといけないなんて! 僕は自分の身の丈に合っていない 僕に自分を外注している 慣れない義手みたいに言葉を使っている ぼくは精神科医に病んでる 僕はあなたの言語の外で育った 舌が焚書にあう ぼくは逃げも隠れもしたい! 舌の下…
それは闇の中で希望を告げる光ではなく次の闘いの始まりを告げる焼夷弾だった 人々が口を開いては沈黙をたいらげている 人から噛み砕いて説明されたことでわたしごと粉々に砕かれてしまった 私の舌から知らない文法が出てくるその方が相手はよくうなずいてく…
名刺のためにたくさんの顔を刷る 教育は僕を娼婦にして稼がせることに成功した 僕の趣味は徒労本業とおなじ 自分の顔に不在票をかけておく これは僕と原寸大の牢屋 命の顔料が尽き世界に色がない 僕は自身の身重となって心臓に陣痛だけがある たくさんの足を…
狂いすぎたせいで一周まわって正常って感じ 自分自身との調停は常に泥沼 また自分の法廷で私が否決された 心療内科へ過去を工事しにいく 金出しゃ誰でも大歓迎!ようこそメンタルクリニックへ! 希望が抱けないなら せめて絶望のバリエーションを増やそうぜ …
八年間の沈黙の岩盤を爆破するためにはのどにダイナマイトぶち込まないといけないよ あんたの舌先に定住は無理日替わりの真実がマイクラみたいで 言葉の負債を忘却で帳消しにするそのせいで思い出が自己破産する 私はマイナス一ヵ国語の話者 人はこの言葉を…
舌を喰いしばって生きている 顔中に無数の動かない舌目をおおう舌 耳をふさぐ舌顔面に舌 鼻毛に舌 歯列に舌老いた舌 枯れた舌 流産した舌 除菌した舌 骨折した舌切除された舌 無能な舌 未熟児の舌 統失の舌無機物の舌 去勢された舌 調教された舌 拘束された…
《注意》壊れています さわってください 私ってたぶん病気のサンバカーニバルの通り道になってる 被験者としてなら医大の首席だよ 私の靴 売ります 未使用 うつが心の風邪?どこが?心のALSじゃなくて? 毎日スプリンクラーみたいに泣いてるリビングを芝生に…
神様はきっと陰キャ私に出てこないじゃん どうやら私のうつは徒歩圏に住んでる 一括の自殺は思いとどまったけど生きていない日々を分割払いしている未来がたびたび過去に押収されているよ 金があれば過ごしていけるけど暮らしていけるわけじゃない 生活する…
私に墓地が新設された 私は立ち止まっているわけじゃない死者に歩調を合わせているだけ 私のかわいい死者見つめるたびに表情が変わる語りかけるたびに思い出が変わるこれじゃあ離れられないでしょ この世は死者のハーレムじゃん 故郷には死者が棲息している…
黙れという刑に処され口内に監禁された舌 言い難き嘆きもて口の陣痛を倦む 歯列を蹴る足は二十年目の舌の臨月 舌の根に墓地を発見しても耳が墓守を務めるとは限らない 大きな声量によって届けないといけません大きな聴量なんて送られてきませんから 殺した者…
息の根は枯れ声の花なく命に荒野あり乞いに御名(みな)なく 息の根に冬吸息の春遠く国に大気薄し未明に舌あえぐ 人々は口持たず息は架空の虚人々は目を増やす息は冷えびえと絶え 雪原重くむごく潰れ息の種耐えず春いまだ来ず 新しい日常の新しい息ならず古…
いつか耳を転覆させるために虎視眈々と軍拡を続ける舌の軍事 権力で目がふさがれて口が衰える権力で耳がふさがれて口が退化する口はふさいでいませんよねという我が国の自由 自ら耳を舗装したせいで国の口車に轢かれていく人々 罪ではなく罪悪感で死んでいる…
耳までの距離に舌がすくむ 私の言葉を訳せるようならそれは私の言葉ではない私の声が聴こえるようならそれは私の声ではない 口が堅いのはいい鼻が堅いのはまだいい耳が堅いのはいけない目が堅いのはもっといけない 口先だけの人がいるように耳先だけの人がい…
名前の津波がやってくる私はただ一人それを受け止める 一生をかけて私たちは自分自身の喪主を務める 一度は意味であった稚魚たちが成長した名前に放流されていくいつかわたしの記憶が遡上して手に負えない大きさで再会するまで 虚飾をまつりあげ実名が逃げて…
体中に口の生えた化け物が一声もあげずに息絶えていた 言葉の暗夜に耳の炬火を掲げ黙り込んだ幼子の顔を照らせ立ちすくんだという聴聞権が閉じられた舌を拓かせるまで 私は沈黙に呼ばれている悲鳴より聞こえているものに 人は黙殺で二度殺せる 唖にはびこる…
女という汚名ではなくて私はふつうの名前に耐えていないといけない 死よりマシな一日を生き死よりマシな一日を眠るその一生が死よりマシかどうかはともかく 大量生産された名前が私を初めて個人にする 過去が現在すぎるときにすぐ眠れるわけないでしょ 同僚…
昨日に僕は戻るそしてそこには誰もいない誰とも待ち合わせていない昨日に僕は戻るそしてそこには誰もいない昨日で僕は待っているそしてそこには誰もいない ・ 笑顔は口よりも大きいまなざしは目よりも重い大きさと重さで子供の顔はつぶれた ・ ぼくは社会か…
昨日に僕は戻るそしてそこには誰もいない誰とも待ち合わせていない昨日に僕は戻るそしてそこには誰もいない昨日で僕は待っているそしてそこには誰もいない ・ お前のまなざしが顔を彫ると僕の仮面が発掘されるお前がそれを付けるとお前が見られている僕の顔…
昨日に僕は戻るそしてそこには誰もいない誰とも待ち合わせていない昨日に僕は戻るそしてそこには誰もいない昨日で僕は待っているそしてそこには誰もいない ♦ 顔の影が体の影に影をおとす ♦ 僕は顔が閉まっていた鍵はあなたたちしか持っていなかったなのにな…
わたs
今回は、『現代ウクライナ短編集』(群像社 2005年)の収録作、「天空の神秘の彼方」の文章の一部を改変した一文と、短い抜粋文を掲載する。 具体的には、「アンドリイ」「フェーディル」といった人名と、「彼」「彼女」といった人称代名詞を、すべて「人間…
昨日に僕は戻るそしてそこには誰もいない誰とも待ち合わせていない昨日に僕は戻るそしてそこには誰もいない昨日で僕は待っているそしてそこには誰もいない ・ 顔に震災するあらぶれにぼくはいつもぼくの震度だった破砕された一生のつじつまに涙にあらがえる…
岩ぐるみ 岩に閉じ込められて圧し潰されたまま五百年を生きた孫悟空における四百九十九年目の無言のように、この生き物はまた嫌だ、嫌だ、嫌だ、と身体を嫌がりむずがり、重いというよりもぐったりしすぎて弛緩しているために動かし難い感覚の、役立たずの、…