愛さないことにかけては世界の方が上手

詩人・ライターの喜久井伸哉(きくい しんや)による愚文集

【現代詩】だからぼくは品詞

   だからぼくは品詞

高いところから落ちて
生きものが壊れる音をだす
天井からも侮辱を受けていた
透明な疲れでできていた昼

僕が僕しようとすると
僕は僕しなくなった
死体にはならなかったけど
素通りしていった死が
からだにたくさん残っている

みなさんの形容詞を修めて
ぼくは名詞に就くことになりました
ハッピーなかかかか顔
顔 かおが
顔がぼくたちのシェイクされる

 いいえ
何でも
ありません
ぼくもぼくたちになれましたか?

ぼくが顔するのではなく
顔がぼくします
だからぼくは品詞
みんなと同じになります

心臓だけがからっぽで
それ以外のぜんぶが心臓みたい
いっしょうけんめいに働くと
たまにイスに座られている

世界の乱視が
めがねなしで見つめ返した
明日は明日が
視認にぼくをさせるだろう

ぼくの名詞が溶けていく
最後のぼくのなかで
ぼくでない人が
       ぼくでない人の名前を呼んだ
それでぼくはふり返る
顔のない顔で
前のない後ろを向い

ぼくは見た
かつてぼくでなかった人の僕を