愛さないことにかけては世界の方が上手

詩人・ライターの喜久井伸哉(きくい しんや)による愚文集

【詩】「禽獣(きんじゅう)」

禽獣 「絆」という言葉はむかし家畜をつなぐ道具の意味だった。大勢で歌われるには不向きな綺麗でもない原義がある。もっとも絆とやらの内実にはずうずうしい調教もあっただろう。 守りたかっただけの命綱がいつしか首吊りをさせている。そばにいようとした…

【現代詩】「寒蝉鳴(ひぐらしなく)」

寒蝉鳴 六十年後の子孫たちがある昼下がりにほがらかな顔をして私たちの今日を戦前だったと言っている あれはまだスマホしかなかった頃のどかにも東京と書けた頃親たちの親たちとその親たち今よりも無恥だったプロローグ まだ会釈が通じるなんてさいわい茶菓…

【写真詩】ラーゲルクヴィスト『無題』付

自身で撮影した写真十点に、スウェーデンの詩人ラーゲルクヴィスト(1891ー1974)の作品二編を付けて公開します。ラーゲルクヴィストは岩波文庫に『バラバ』『巫女』がありますが、私は散文より詩に感銘を受けました。弱く孤独な者=自身への憐憫ある内省的…

【現代詩】『イーロン・マスクの火星移住プロジェクトに対する私的な反対意見』

イーロン・マスクの火星移住プロジェクトに対する私的な反対意見 私ずっと沈黙そっくりの怒号をあびているみたいだった。子供の頃に受けた男性からの叱責が今でもよく聞こえていて大人になってからも余震みたいに私に残響してくれている。 安い下着履いてワ…

【現代詩】「黒い虹」「平地」

先日「東京レインボープライド2018」を鑑賞した。そのことは「ひきポス」の記事でも取り上げている。 私の空にかかる虹は黒色 「ひきこもり」とセクシャルマイノリティ① - ひきポス -ひきこもりとは何か。当事者達の声を発信- 参加して楽しかった……という感…

写真詩「帰途」 /「ひきこもり新聞」サムネイルのための写真2 田村隆一の詩を添えて

2017年に、「ひきこもり新聞」のサムネイルに使おうと思い、撮影した写真です。画像だけではシンプルになるため、田村隆一の詩「帰途」を失敬し、写真につけ加えて公開します。 ♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦ 帰途 田村隆一 言葉なんかおぼえ…

詩「『十年』のトリプティーク」

「ひきこもり新聞」との最初の接点は、私が以下に載せた「十年」の詩を送ったことでした。結局は掲載の予定になりませんでした(つまりボツになりました)が、そこからエッセイを書くことにつながりました。個人史をふり返ってみれば、縁をつむいだ重要な詩…