愛さないことにかけては世界の方が上手

詩人・ライターの喜久井伸哉(きくい しんや)による愚文集

「責任の 責任による 責任のための責任」上演台本

 

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  責任の責任による責任のための責任

 

 

〔舞台 カメラやレコーダーなどが用意された記者会見場。規律正しい記者たちが演台をとり囲む中、政治家の高齢男性(女性や若者は不可)が登壇する。演台の両脇に置かれたプロンプターに以下の文面が映し出され、政治家がゆっくりと、やや舌足らずな声で読み上げていく。〕

 

 この度の責任問題におきましては、任命責任の責任はわたくしにあり、責任という言葉の責任を噛みしめ、責任を重く受け止める責任を自覚しながら、責任と向き合う責任を、精一杯まっとうする責任であります。今回の責任において、責任はひとえにわたくし一人にありまして、国民の疑問に答える責任があると考える所存であり、わたくしは日本の責任、国難に立ち向かう責任を負い、責任と責任を両立させながら、政治家の覚悟をもって、この責任の重責を果たしていく覚悟です。わたくしは立法府の責任ですから、我が軍の責任はわたくしにあり、こんな人たちの誤解をまねかないよう、責任をかけて、責任を、心からの責任によって、決断していく責任があります。そもそも、責任的に、わたくしは国民からの声に答える責任がありますので、その責任が、責任でないというときには、わたくしは責任において、総理大臣も議員も辞めるという覚悟で、この責任をまっとうし、ところで、そもそもというのは、基本的という意味が含まれておりますが、基本的に、わたくしの責任でありますから、責任を責任として、責務にこたえていくための、重い責任があるわけです。今回のことは、多大な責任を伴い、多くの方に誤解を与えてしまったことで、責任の重さが重々痛み入るわけでありまして、しかし、この責任をバネに、あらたな責任へと立ち向かい、日本を取り戻すための、われわれの責任を果たすため、わたしくは本気の責任を、力強く負っていく覚悟であります。わたくしの責任を問う声もありますが、皆様方のお声に耳を傾け、人々の責任に真摯に寄り添い、失われた責任を取り戻し、人生100年時代の責任に責任を日々あらたにし、国民の暮らしとわたくしたちの責任を守り抜くために、一丸となって責務を実行していきます。わたくしどもは、ご存知の通り、過去最高水準の責任を達成しているわけでありまして、野党からの質問へのお答えは差し控えることとし、責任ある文書の提出はせずに、わたくしはこの度の責任を重く鑑み、責任を積み重ねながら、国民の皆様方のために、責任をまっとうしていく所存です。わたくしは、いっそうの責任を決意し、過去の責任を無駄にしないよう、日本に、責任ある政治を根づかせ、新しい責任の誕生をむかえさせるために、責任の、責任による、責任のための責任を、我が国からなくさないために、わたくしは、ここで、固く責任を決意する次第であります。

 

〔政治家は軽く頭を下げて、すぐに会場を去る。記者たちは無言で挙手しているが、政治家は振り返らずに去る。暗転。〕