愛さないことにかけては世界の方が上手

詩人・ライターの喜久井伸哉(きくい しんや)による愚文集

【現代詩】伝統

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 伝統

国を食べなさい。
国の足の裏を食べなさい子供たち。
タンポンのように詰め込んで
麻薬を密輸するために満杯にしたはらわたのように
すこやかに育ちなさい。
住みなさい子供たち。
微生物が鼻腔にびっしりと張り付いているように
しっかりと国になりなさい子供たち。
あなたたちの骨の硬さが地盤の固さ
あなたたちの脂肪が母国の乳房
腋の下や股間の汗の粒が体躯の密着で潰れる
そのように国と同化しなさい子供たち。
踊りなさい。
身体になりなさい。
子供でいなさい。
子供とみなされる子供でありなさい。
揮発して語りえない空気となって
この国の放射線のように大気中に飛び散りなさい。
見えない針の雨で野菜に農薬に赤ん坊の肌に鉤爪をあて
食いこんで身を潜めておきなさい。
そして食べられなさい
その時にはもはや子供でなくなっている者たち。
食べられなさい。
この国の足の裏のように食べられなさい。

 

 

 

(Photo by Pixabay)