愛さないことにかけては世界の方が上手

詩人・ライターの喜久井伸哉(きくい しんや)による愚文集

【現代詩】有名だからカフカを読んでみたけど全然面白くなかったしどちらかというと嫌い

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 有名だからカフカを読んでみたけど全然面白くなかったしどちらかというと嫌い

誰か私に謝ってほしい。
頭を下げて心からの謝罪をして
私を明確に世界の被害者に固定してほしい
自己責任でも思慮の欠如でもない0対10の過失の決定を

朝のポストには集団からの謝罪文が届いていてほしい
私が全面的な正義であることのわずらわしさすらなく
水道料金の領収書とピザ屋のチラシのあいだで
大勢の人たちが私に対して議論の余地もないほどめちゃくちゃに敗訴していてほしい

作家は「お前と世界との決闘に際しては世界に介添えせよ」と言う
私はある朝からいきなり集団的に敗訴を繰り返している
固定化された日常がつづく賃貸の城に定住して
私は誰かに謝りつづけないといけない反復を生き延びている

参加したつもりもないコミュニティの人たちがにこやかに私とあいさつして
次の裁判と次の次の裁判のための打ち合わせにとりかかっている
何を告訴しているのかわからない正しさを皆で守りあい
何が不受理になったのかわからない不当さと闘うために団結している

 

     告  訴  状

 

               令和 年 月 日

 

___警察署長 殿

 

               告訴人         印

 

   告訴人  住  所 〒  -  

        氏  名

        生年月日 昭和  年  月  日

        電話番号    -   -

 

  被告訴人  住  所 〒  - 

        氏  名

        職  業

        電話番号    -   -

 

新しい一日のために新しい敗訴を
そのつど苦渋の涙を流して悔やむほど真剣だった
敗れたことで有名になった人ほどうらやましいものはない
私も全世界の人から哀れまれるほどの審判に暮らしてみたかった

 

 

 

 

参照 F・カフカ著『夢・アフォリズム・詩』吉田仙太郎訳 平凡社 1996年 / 刑事告訴・告発支援センターHP http://www.告訴告発.com/index.html / 画像 Pixabay