愛さないことにかけては世界の方が上手

詩人・ライターの喜久井伸哉(きくい しんや)による愚文集

【現代詩】 誤答(終戦は終わった)

   誤答

何人までが殺人で
何人からが英雄か。
どの線までが愛国で
どの線からは敵国か。

ひらがなでかかれていたつちのうえ
カタカナにさせるアノデキゴト。
文字にならない声を集めて
歴史のマス目は埋められた。

テストのために子供たちは
正確な偽書を暗記していく。
(うるわ)しく縫われたくちびるで
新品の沈黙を語り継ぐ。

全滅ではなく玉砕をして 
退却ではない転進をして 
占領ではなく進駐をして 
敗戦ではない終戦は終わった。

過去がいかなる素数であっても
まっすぐな隊列は割り切っていく。
大きな答案用紙のために
子供たちは偶数に召される。 

ここからあの経度までは自衛。
ここからあの数字までは英霊。
若さが完遂させられる明日を
親ゆずりの教師が指導する。

私の立っている位置は
私の足裏にあるものの上。
あなたから私までの距離は
私からあなたまでの距離。

どうかこの無学な体温が
添削されませんように。
いつか巨大な正しさを前にしても 
私たちは慎重に
なおかつあらんかぎりの力をもって
小さな誤答ができますように。

 

 

 

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