2019年2月9日、絵本作家として知られるトミ・ウンゲラー(Tomi Ungerer)が亡くなった。87歳だった。
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ウンゲラーは1931年フランス生まれ。56年に渡米し、イラストレーターとして活躍する。その後アリルランドに移住。代表的な絵本に「すてきな三にんぐみ」、「エミールくんがんばる」などがある。98年国際アンデルセン賞受賞。
絵本作家としての評価が高いが、諷刺的なイラストレーションも多く描いている。20世紀のアメリカで最先端の文明にふれ、モノに侵され、支配される人間像を見たのだろう。そのまなざしはディープで辛らつ・アングラ的な表現を生み出し、子供には見せられない世界となっている。
作品が高く評価されるようになり、ウンゲラーの絵本はアメリカ各地の図書館の蔵書となった。しかし、イラストレーターとして性的な作品を描いていることが問題視される。それに対してウンゲラーは、『セックスがなければこどもだって生まれないだろう?』と返答。この発言が図書館司書会議で非難され、結果アメリカの公共図書館からすべての作品が締め出されることになった。
絵本作家というと、人によってはおだやかな人というイメージがあるかもしれない。だが私は、優れた絵本作家をアナーキーで挑戦的な藝術家だと思っている。子供の精神を反映するような作品を生み出す作家が、ニコニコしているだけの好々爺なはずはない。
『諷刺は人間の醜い面を表現するものであって、美を探求するものではありません。』というウンゲラー自身の言葉のとおり、諷刺家としての作品は人間の醜悪さをあぶりだし、まがまがしく誇張された戯画となっている。中でも『アンダーグラウンド・スケッチブック』(1964)は風刺とエロティシズムに踏み込んだ作品で、か細い線がクールな表現へと至らしめている。グーグルなどで「the underground sketchbook of tomi ungerer」を検索すると、エスプリの精粋こもるスケッチの一端を見ることができる。
『偉大なるウェダ』(2004)は200部限定の制作。カタツムリに仮託して人類史を哄笑している。私は雑誌『芸術新潮』のウンゲラー特集の片隅に出ているのを見ただけだが、キリスト教もファシズムもネタにしている野心作。ウンゲラー自身が「諷刺の究極」と自負するように、おそらく相当の傑作と思われる。
絵本だけではなく、切れ味のあるイラストレーターとして再評価されてほしい。
画像・参考
雑誌『芸術新潮』2009年9月号 トミ・ウンゲラーのおかしな世界
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