愛さないことにかけては世界の方が上手

詩人・ライターの喜久井伸哉(きくい しんや)による愚文集

【諷刺家ファイル】No.53 諷刺画の王 ジョージ・グロス

ジョージ・グロス(George Grosz 1893–1959)
ドイツの世相を鋭く荒々しい描写によって描きだした、二〇世紀最大の風刺画家。


 以下は『社会諷刺漫画』 (岩崎美術社 1969年 ※表記は「グロス」ではなく「グロッス」となっている)から。順に「えらい人」、「つくられた民衆の声」「あわれなキリスト」。

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 画家としては油彩画に評価があるが、個人的には人間の醜悪さをスケッチしたモノクロ画に、諷刺の才気の真骨頂が表れていると思われる。ただ中年男の顔を描いただけの「えらい人」の、なんという見事さかと思う。ふてぶてしさ、傲慢さ、差別意識が、細い描線からはち切れんばかりに溢れているように見えないだろうか。「つくられた民衆の声」、「あわれなキリスト」は1コマ漫画・ユーモアスケッチの類としての完成度を持っている。他の作品においても、荒れたノイズ的な描線が、混沌の時代と民衆の貧しさとをとらえ、弱者に寄り添う憐れみと社会への義憤に化している。「私の絵の手本は便所の落書きだ」と言った画家であり、伝統的な絵画の「美」の破壊が、それまでの画家が到達できなかった諷刺の切れ味となった。

 

 次に代表作といってよい「社会を支える人々」(The Pillars of Society. 1926年)。

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 スティーブン・ファージング編集主幹『世界アート鑑賞図鑑』(東京書籍 2015年 p423p)でも、この作品が言及されている。

『拝啓には燃える建物が描かれ、シャベルを担いだ労働者が政治的左へ、ナチスの兵士が政治的右へと向かっている。この頃のグロスの描写スタイルは単なるカリカチュアではなく、フランシスコ・デ・ゴヤの系譜に連なる風刺的人物画の域に達していた。』

 また人物描写については、見てのとおり『脳があるべき場所に湯気をあげる堆肥が詰まっている。』と指摘。「クソ野郎」や「頭からっぽ」が文字通り絵になっているといえるもので、これは現代の風刺画でも戯画の手法としてよく描かれている。この数年はトランプ大統領によって類似の発想が量産されており、WEBサイト「Cartoon Movementカートゥーン・ムーブメント)」でいくつもの作例を発見できる。

 

 なお油彩画については、ウィキペディアのページからもリンクされている以下のサイトで作品を観ることができる。
www.freeart.com